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注意点 『【僕まか】僕の魔界を救って!』スレッド限定で使われる用語を集めるページですが、 僕まか初心者の人達のためにも、スレ内で用語を乱用や仲間内のみの盛り上がりは避けよう スレで用語の意味を尋ねられたり誤用された場合も、罵りや見下し、排他的なレスは厳禁です なお、用語としては出来るだけスレをまたいで使用されたものを掲載するようにしよう 頻出度の目安 用語頻度の★については、大まかにこのようになっています ★★★★★ スレの常識となっている頻出用語 ★★★★☆ 使用者がかなりいる。定期的にスレに出る ★★★☆☆ 使用者がそこそこいる。認知されている ★★☆☆☆ 使用者が少しである。時々使われる ★☆☆☆☆ 使用者が限定的、もしくは極まれ ☆☆☆☆☆ 今は使用者がほとんどいない死語 あ行 ~ か行 小見出し あ赤画面:あかがめん 穴:あな 育成放流:いくせいほうりゅう 育成枠:いくせいわく 一軍:いちぐん 1回攻撃:いっかいこうげき 妹:いもうと 芋板:いもばん 癒し系:いやしけい ウーズ:うーず ウザゼル:うざぜる ウンザリチュ:うんざりちゅ おっぱい:グレモリー 鬼僧:おにそう かぼちゃ:かぼちゃ か魚神:ぎょじん 籤:くじ クラリバ:くらりば 御三家:ごさんけ ゴブリン(0):ごぶりん ぜろ コンビニ:こんびに さ行 ~ た行 小見出し さ最低3回攻撃:さいていさんかいこうげき 坂口:さかぐちぃぃぃ! 忍び:しのび 縛り:しばり 城塞:じょうさい 城壁:じょうへき 職員:しょくいん しょこら スフィンクス:すふぃんくす 0進軍低下バグ:ゼロしんぐんていか 先生:せんせい 全体攻撃:ぜんたいこうげき 戦地別コンプリート:せんちべつこんぷりーと ゾロアスター教:ぞろあすたーきょう ソロモン72柱:そろもんななじゅうふたはしら た大魔王さま:だいまおうさま 太郎:たろう ダンタリオン:だんたりおん 超進化:ちょうしんか 杖:つえ ツボの人:つぼのひと テスプス:てすぷす デュラハン:でゅらはん ドーピング:どーぴんぐ 塔:とう 毒:どく 特殊計算:とくしゅけいさん 登山:とざん 砦:とりで ドルジ:朝青龍 トレード:とれーど トロナイ:とろない な行 ~ は行 小見出し な二軍:にぐん 2時間くん:にじかんくん ニムシー:にむしー null:ぬる ノビ使徒:のびしと はPT:ぱーてぃー バアル:ばある パッシブスキル:ぱっしぶすきる パナカー:ぱなかー バベラー:ばべらー 板金:ばんきん 蟠竜:ばんりゅう ビッチ:びっち ヒュードラ:ひゅーどら 不幸:ふこう 物欲センサー:ぶつよくせんさー 変動相場制:マネーゲーム 放流:ほうりゅう 僕まか:ぼくまか ま行 ~ わ行 小見出し ま魔界昆虫:まかいこんちゅう 枕:まくら 魔神:まじん 魔神ラードーン:まじんらーどーん 祭り:まつり 回す:まわす 岬:みさき 魅了:みりょう 門:もん や槍:やり らラーバナ:らーばな リアルラック:運 リザードナイト:りざーどないと 竜:りゅう ルシファー:るしふぁー ロック鳥:ろっくちょう ロマン枠:ろまんわく わワイバーン:わいばーん ワッハ:わっは 罠 わな ワンワン:わんわん その他 コメント (ログはこちら) ただいま新wikiに移行作業中…ttp //wikiwiki.jp/bokumaka/ - 2014-04-05 13 37 19 レジストってどういう意味ですか? - 2013-03-18 11 08 54 耐性、みたいな? ブレスにレジストがある相手だと、ブレスでダメージを与えにくくなる、みたいな感じかな、簡単に言うと。サーメットさんにブレス当てても、耐性100だからレジストで与ダメは1になる。とか - 2013-03-22 21 40 32 ありがとうございます - 2013-03-24 18 22 32 そろそろ戦地別コンプをいれてやってもいい頃。 - 2013-02-12 12 39 26 HTMLよくわかんないから文だけ作った。あと頼む - 2013-02-13 00 23 17 戦地別コンプリート 初出:220丁目ぐらい 頻度:★★☆☆☆ 意味: 最果ての村から征服者の塔の魔界、最果ての海から不帰の樹海(現時点で)の境界全ての戦地で、全ての敵に遭遇し、全ての宝物を奪還し、全ての仲間を開放することを目指すドM……勇敢な魔王の行動である。 育成や文集めに比べて、意味が無いと思われる戦地を何回も何十回も何百回も回す戦地別コンプリートは地味で単調な作業になりがちである。だが、この単調な作業を乗り越えた魔王こそが真の魔王として魔界を救う事ができると確信している。 ちなみに戦地別コンプリートで大変な戦地は、 S バベルの塔、城塞都市イーグリット、オステオン王の地下墓地 A ミノタウロスの迷宮、リリーの渓谷、超硬王の塔、 B 他 だと感じた。 (大魔王様、戦地別コンプリートしたら玉座が豪華になるとか一目でわかるような特典お願いします) - 2013-02-13 00 23 32 ナトもAかBに入れるべき 150回でもエリゴスが出ない - 2013-03-22 09 59 05 硬王とミノもsでいいと思う城壁をAに追加で - 2013-07-21 21 31 57 パッシブスキルが全然追加されないので追加しました。なんか間違いとか気になるところとかあったら修正します - 2012-12-27 08 27 50 テューポーンの服従レベル違うよ 44だよね? - 2012-11-28 17 24 44 オススメページでは長文だが、用語集のラバナを見た目でオチつけるには、他の欠点に触れづらいな…このままでもいいか - 2012-11-12 23 36 38 職員入れろよ〜 期待外れの残念魔神の典型じゃねぇか 大魔王の策略じゃね? ぬか喜びさせたかったんだよ - 2012-10-01 19 59 45 芋はstrが伸びなさ過ぎてインフレの進んだ今だとすっかり馬車においてかれちゃったね - 2012-09-20 17 52 21 獣人 - 2012-08-12 12 38 39 ワッハチャット追加お願いします - 2012-08-03 21 52 23 板金とバアルの画像見れないんだけど・・・ - 2012-07-27 01 42 14 デュラハンは彼じゃなくて彼女じゃないの? - 2012-07-04 04 16 39 侍女の人追加でいいんじゃない? - 2012-07-03 18 12 07 下痢=ゲリュオネウスは追加しても良いんじゃない? - 2012-07-01 03 55 19 流記府花=ルキフゲ・ロフォカレはもう用語入りでいいんじゃないか - 2012-06-30 19 50 55
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<前11-3へ|次11-5へ> 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」11-4 738 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 01 34 18.87 ID quxpU4cP 魔王「……」 青年商人「違いますか?」 魔王「済まなかった。その通りだ」 火竜公女「魔王どの……」 鬼呼執政「魔王さまっ!?」 青年商人「宜しい」 魔王「二分時間をくれ」 青年商人「……」 火竜公女「……」 鬼呼の姫巫女「……」 魔王「――優れた問いか。 忘れていた。最初の問いは常に “いま問えばよいのは何か?”だ」 青年商人「そうです」 魔王「その答えにして次の問いは“わたしはこの戦役の 着地点をどのような位置にしたいのか?”だな」 青年商人「はい」 魔王「だとすれば、答えは決まっている。 ……人間にも魔族にもこれ以上の被害を出させないように、 双方に矛を収めさせる。そして平和条約だ。 もしこの都市が落ちれば魔族は人間を恨む。 人間は魔界をただの新しい植民地と見なすだろう。 それは千年にわたる争いの幕開けだ。 この開門都市こそはその瀬戸際。 血に染まった歴史を見ぬためにこの都市を守らなければならない」 青年商人「しかし守るだけでは意味がない」 魔王「そうだ。守りきりさえすればば、 聖鍵遠征軍が軍を引くというのは希望的観測に過ぎない。 なんとしてでも、あの軍に我らが希望を理解させ、 交渉のテーブルにつかせる必要がある」 739 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 01 36 06.72 ID quxpU4cP 青年商人「承りました」 火竜公女 こくり 魔王「は?」 青年商人「このことを話すのは非常に気が重く、 わたしとしても痛恨の出来事であり、汗顔悔悟の至りなのですが とある権謀術柵に巻き込まれた結果、 現在わたしは魔王を名乗るに至っているのです」 火竜公女「身から出た錆でありまする」 魔王「それは……」 青年商人「ええ、理解しなくても構いません。 むしろあまり深い理解はわたしを傷つけると察してください。 ともあれ、そのような事態で、 わたしにもこの都市を救う義務があります。 ですから、もちろん救う、などというお約束は出来ませんが それでも、この場は――お任せあれ」 魔王「……」 青年商人「この執務室は私と公女が借り受けます。 ふむ……」 ぺらっ、ぺらっ 魔王「それらの報告は……」 青年商人「このような報告、庁舎の職員と砦将に 任せればいいのです。魔王どのには、魔王どのの仕事があるはず」 火竜公女「妾も覚悟を決めました。 この都市を救うために全てを賭けて戦う覚悟を」 740 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 01 38 18.91 ID quxpU4cP 魔王「しかし、わたしがここでっ」 青年商人「足手まといだと云っているのです」 火竜公女 にこり 魔王「あしで、まとい?」 青年商人「はい。勇者のいない魔王は、足手まといです」 火竜公女「ゆえに妾達が、ここは支えまする」 魔王「――」 青年商人「探しに行ってください。見ていられません」 魔王「しかし。わたしたちは……。 わたしと勇者は、いずれあの祭壇の前で……。 それが、契約で……。 だからわたしと勇者は、もう。 もう……」 バタンっ!! 伝令兵「魔王様っ!!!」 火竜公女「何事ですかっ! 云いなさいっ!」 伝令兵「ただいま、防壁、南部大門が突破されましたっ!!」 魔王「なぜだっ!? 南側の壁は確かに亀裂が入っていたが、 それだとしても、一挙に大門まで粉砕されたというのか? いったい何があったというのだ!?」 伝令兵「聖鍵遠征軍は、想像も出来ない行為をっ。 あ、あいつらは、その……。人間を……。人間が……」 青年商人「落ち着いてください」 伝令兵「人間が、爆発したんですっ。 何十人かのいつもの狂信者が槍で突撃をしてきたかと思ったら その身体ごと、巨大な爆発がっ。 砦将はすぐさま防御軍を結集され南通り一帯は 市街戦になっています! なにとぞご避難を、魔王様っ!」 806 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 18 54 05.04 ID quxpU4cP ――開門都市、南大通り、六番街 東の砦将「隊伍を組めっ! 長槍兵! 戦列を崩すなっ」 竜族軍曹「左右の商店を崩せっ!」 人間衛兵「しかしっ」 東の砦将「いまは防ぎきるのだ! そうでなくても略奪にあう。 くずせ! バリケードを作れ!!」 竜族軍曹「そうだっ! 弓兵配置は終わったかっ!?」 耳長弓兵娘「配置完了しましたっ!」 東の砦将「矢の尽きるまで撃ち込めっ! 地の利はこちらにある。 街路を封鎖して、敵をここで足止めするんだっ! 全ての通用門封鎖っ! 防備部隊を配置っ!」 ゴウゥゥン!! ゴォォン! 光の銃兵「左右へ散開しながら前進っ!!」 光の突撃兵「精霊は求めたもうっ!」 ゴウゥゥン!! ゴォォン! 東の砦将(展開がにぶい……?) 竜族軍曹「どうやら遠征軍も攻めあぐねている様子」 東の砦将「指揮がなっちゃいないな。どういうことだ」 竜族軍曹「マスケットの砲声も少ないですな」 東の砦将「……。押し戻せ! 何はともあれ、 連中はまだ統制が取れていないようだっ! いまならまだ押し返せる。――短弓で左右の家の上から 応戦しろ! 小刻みに動けっ」 807 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 18 56 08.50 ID quxpU4cP 竜族軍曹「足を止めるな!! 槍兵中隊、前進っ!」 ザッザッザッ! 人間槍兵「我らに自由をっ!」 蒼魔槍兵「我が地に平安をっ!」 キィン! ガキィン!! 隻腕の獣人男「うぉぉ!!! どけどけぇぇ!! 命が惜しければ逃げるがいいや。ここは一歩も通さねぇ! のど笛噛みちぎってでもお前達を進めさせはしないぞ」 中年の義勇兵「押せ! 押せ!」 ゴウゥゥン!! ゴォォン! ゴウゥゥン!! ゴォォン! 東の砦将「八番切り込み隊! 紫神殿通りを迂回して、 南大通りの左翼から敵に突っ込め!! 射手は援護を! 獣牙族の動ける範囲を増やせ、屋根の上の自由を奪われるな」 竜族軍曹「動け! 足を止めるな!! 敵は多いのだ、こちらが遊兵をつくると押し込まれるぞっ」 東の砦将「おい、副官。門の外の状――ちっ!」 人間衛兵「は? 砦将」 東の砦将「なんでもねぇ。不便を実感していただけだ。 防壁はどうなっている?」 竜族軍曹「南門近くの防御用司令部に遠征軍が 群がっているようだ。あそこには義勇兵しか居ない、まずいぞっ」 東の砦将「俺が行くっ。鬼呼抜刀隊、ついてこいっ!!」 811 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 19 24 28.31 ID quxpU4cP ――魔界、白詰草の草原、開門都市、西方2里 タカタ、タカタ、タカタ、タカタ メイド姉「お気を悪くされてはいませんか?」 勇者「なにが?」 メイド姉「いえ、その。わたしが勇者を名乗るだなんて」 勇者「ああ。びっくりしたけどさ。面白かった」 メイド姉「はい。あの……」 勇者「……」 メイド姉「勇者様が、1つじゃなくても良いんだって」 勇者「え?」 メイド姉「昔、仰ったじゃありませんか。 教会は1つじゃなくても良い。って。 そして湖畔修道会が冬の国では正式な教会として認められて」 勇者「うん」 メイド姉「だから、思ったんです。 勇者も、一人でなくても良いんじゃないかって。 ……すみません。なんだか、何を云えばいいかよく判らなくて」 勇者「勇者の力が欲しかったの?」 メイド姉「いいえ。……むしろ勇者の苦しみを」 勇者「?」 メイド姉「わたしにも背負える荷物があるのではないかと。 わたしが流せる血があるのではないかと、そう思いました。 わたし達は、自らの負債を勇者様や当主様に 押しつけているのではないかって。 目には見えないから、実感できないから 罪の意識もなく罪を重ねているのではないかと」 勇者「……」 812 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 19 26 41.78 ID quxpU4cP タカタ、タカタ、タカタ、タカタ メイド姉「当主様も勇者様も優しいから。 もしかしたら、払いすぎてはしまわないかと。 それが心配です。 あの冬の夜、凍り付くような納屋の中で 別に特別なことでもなんでもないかのように わたし達姉妹を救ってくれたように。 特別なことでもなんでもないことのように、 世界を救ってしまうかも知れないのが心配です。 そんなお二人だから、 それがあんまりにも当たり前のことのように感じてしまって。 どんなに大事に思っているか、どんなに感謝しているかを 伝えることも忘れて、当たり前になってしまうのが心配です。 当主様も勇者様も、血を流すことに馴れすぎているから」 勇者「そんなことは、ないよ」 メイド姉「それを確認したいんです。勇者になって。 勇者でいると云うことが、どれだけの痛苦を要求されるか。 どれだけの恐怖を強いられるか」 勇者「……」 メイド姉「膝がガクガクしますよね。 喉は干上がって、身体は木で出来たかのように 思い通りに動かないし、 頭は熱に浮かされたようにぼやけている割に、視界は鮮やかで。 みんなの不安そうな顔も苦しそうな呟きも いやになるほどはっきり聞き取れて。 手綱を握る手のひらは、汗で滑って。 滑稽で臆病ですよね、わたし。 全然向いてないって、よく判ります」 勇者「相当に場慣れして見えたよ」 メイド姉「それはもう。自分のお葬式に参加してる気分で 生きていますからね。ふふっ」 815 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 19 29 19.10 ID quxpU4cP タカタ、タカタ、タカタ、タカタ メイド姉「止めないで、下さいね」 勇者「……」 メイド姉「チャンスがあるのならば、賭けてみたい。 わたしはやはり、 わたし達がそこまで馬鹿だとは思いたくないんです。 わたし達は自由なのですから。 縛られたままでいる幸福も、世界にはあるって知っています。 でも、それでも飛び立ってゆく鳥を留めることが出来ないように わたし達は明日を探しに飛び出してゆける。 本当は誰だって知っているはずなんです」 勇者「うん」 メイド姉「そのために血が必要なら、 その席を譲るわけにはいきません。 たとえ相手が勇者様にであっても、当主様にでも。 その席は、言い出しっぺであるわたしの座るべき場所なんですよ」 勇者「……」 メイド姉「元帥さまだって判ってくれますよ」 勇者「……」 傭兵弓士「おいっ! 開門都市が見えたぞ!」 ちび助傭兵「煙が上がっているな」 貴族子弟「持ちこたえている証拠ですよ」 メイド姉「間に合いましたか」ほっ 勇者「――っ!」 キンッ 傭兵弓士「え?」 メイド姉「どうしたんですか?」 勇者「なっ。……死? 火薬? 破裂、血、硝煙、破壊」 817 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 19 30 57.09 ID quxpU4cP 貴族子弟「どうしたんです!? なにが?」 勇者「死んだ。何かが……。な、これっ……。 気持ち悪いぞ、なんだこの真っ黒なのはっ」 傭兵弓士「黒煙が発生。大規模攻撃か!?」 ちび助傭兵「斥候に出るっ! 若造、フォローっ」 若造傭兵「判った、行けっ!」 生き残り傭兵「何が起きているんだ。どうする、代理?」 メイド姉「進みましょう」 勇者「悪いな」 貴族子弟「え?」 勇者「つきあえるのは、ここまでだ」 勇者「“飛行呪”っ! “加速呪”っ! “雷鎧呪”っ! 術式展開っ、“天翔音速術式”っ!!」 キュゥンっ! メイド姉「勇者さまっ!」 勇者「縛りプレイだとかそんな事、もう知るかっ。 俺の目の前で、お前らいったいどれだけっ……。 やるなって云ってるのにっ。 なんでお前らはそうなんだ。壊したり、殺したりっ。 そういうのはさっ!」 ひゅばっ! 器用な少年「すげぇ、なんだ、それっ」 勇者「いい加減飽きたって云ってるんだよっ!!」 839 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 20 15 17.00 ID quxpU4cP ――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線、南部連合軍、丘の上 ……オォォン!! うおおおっ!! 鉄腕王「なんだっ」 斥候兵「報告申し上げます! 前方遠征軍で大きな動きがありっ」 鉄腕王「見れば判るっ! 詳細をっ」 斥候兵「それは現時点ではっ」 軍人子弟「何か動きがござったな。 こちらではない、とすると……。 開門都市防備軍との戦いに何らかの動きが」 鉄国少尉「防壁が破られたのでしょうか」 将官「その可能性はあるな」 冬寂王「いや、前方の陣ぞなえにも変化が」 鉄腕王「なんだと?」 軍人子弟「これは、突撃陣形……」 鉄国少尉「王弟元帥は持久戦を望んでいたのではありませんか?」 女騎士「王弟元帥の望みとは別に、そうせざるを得ないのだろう。 おそらく、防壁の一部が崩れたのだ。 前方の遠征軍が市街への侵入を開始した。 そうなれば、我らは、撤退するか、 突撃を仕掛けて援軍に向かうかの二択を強いられる。 あれは、意思表示だ。 近寄るならば、食らいつき、蹂躙すると云うな」 冬寂王「うむ……」 鉄腕王「仕方あるまい。どだいここまで来て 一戦も交えぬと云うことに無理があったのだ」 840 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 20 16 28.93 ID quxpU4cP 軍人子弟「鋼盾の準備をさせるでござる」 鉄国少尉「了解しました。……馬車に装甲板を取り付けよ!」 羽妖精侍女「魔王サマ……」 女騎士「何かが、おかしい……」 軍人子弟「どうしたでござるか?」 女騎士「いや、おかしい。違和感がある。ここまで露骨な。 ……余裕のない動きをする司令官か? 何が起きている?」 冬寂王「何が気になるのだ?」 女騎士「わかりませんが……。 遠征軍の陣地で、何か大規模な問題が発生していると見えます。 突破のチャンスなのか、罠なのか……」 冬寂王「チャンスだ」 鉄腕王「気にしたって仕方がねぇ」 鉄国少尉「装甲馬車、第一波準備良しっ!」 将官「――それは?」 軍人子弟「堡塁と車両の両方を兼ね備えた策でござるよ。 樫で作られた丈夫な馬車を鉄の装甲板で強化したものでござる。 8輪を持ち、多少の砲撃でも移動可能なうえに、 その気になれば人力で押してゆくことも出来る。 この車両20台を弾よけとして押し上げてゆくでござる」 女騎士「ふっ。考えたじゃないか」 軍人子弟「誰一人、死なせたくないでござるからね。 しかし、それも、騎士師匠が約束を守ってくれていれば、 の話でござる」 845 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 20 22 30.40 ID quxpU4cP 女騎士「任せて欲しいな。 ――ライフル部隊! 多少狭いが馬車に乗り込めっ! 射撃準備をして火薬も持ち込めよっ!」 将官「それは……?」 軍人子弟「あの部隊は、狙撃用の銃兵部隊でござる。 数は少ないでござるが騎士師匠が鍛えた勇士でござるね。 その射程距離と攻撃力を生かすためには、 安心して銃撃が出来る砲座が必要でござる。 あの馬車は重装甲でござるが、 銃眼とよばれる小さな窓がついているでござる。 いわば、移動用の小さな砦といえるでござろう。 防御に安心が出来るからこそ、 狙撃などと云うことが可能になるのでござる」 鉄国少尉「こちらの兵を守る砦になりつつ、武器にもなるのです」 女騎士「数が少ない銃兵を生かして、敵の力を発揮させない 方策というわけだ。この程度の事はさせてもらわないと」 将官「そうかっ。うむ!」 軍人子弟「そして歩兵部隊には、下部の尖った鉄の盾を運ばせる。 この杭のように尖った部分は、地面にさして即席の壁を 作り出すことが出来るでござる」 女騎士「この2つで、こちらの陣地は柔軟に運用する」 冬寂王「……やるな」 鉄腕王「よっし! 鉄腕国、遠征部隊っ! および南部連合、連合軍!! 眼前の聖鍵遠征軍後方防御部隊との間に戦端を開くっ 命を無駄にするなっ! 敵はマスケットだ。 鉄壁と装甲馬車を弾よけにしろ! 敵に突撃戦力はないか あってもごく少数だ! 第一射を撃たせろっ!」 軍人子弟「皆の味方を信じるでござる! この盾も車両も、鉄の国の鉄工ギルドが 総力を挙げて研究したもの! マスケットの弾は20歩離れた場所から撃っても 貫くことは出来ないでござる! 工兵は縦線塹壕の準備! 急ぐでござるっ!!」 853 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 20 42 44.57 ID quxpU4cP ――聖鍵遠征軍、本陣上空 ひゅばぁぁぁぁああっ!! 勇者「つぐみっ!」 夢魔鶫「御身の側に」 勇者「魔王は!?」 夢魔鶫「判りません。しかし、防壁の一部が破られ、 聖鍵遠征軍は開門都市内部に侵入した模様」 勇者「こんな事になったら約束も糞も関係あるかぁっ!」 ――転移は禁止。上級呪文も禁止。勇者呪文もダメ。 とにかく、勇者としての力を使ってはいけない。 それを狙っている相手がいる。 最後のその時まで、勇者は力を使ってはダメ。 そうでないと……止められる人がいなくなる。 勇者「知ったことかっ。招嵐っ!!」 夢魔鶫「これは……」 勇者「気象制御だ。あいにくこれだけの広域となると、 ごっそり魔力使っちまうが。そんなんどうでもいいっ」 夢魔鶫「ですが、御身が」 勇者「温度低下系は苦手なんだ、離れてろ」 夢魔鶫「はい……」 ぱたぱたぱたぱたっ (……大気中の水分を凝固させる。 中心だけ冷やすと、雪や霙になってしまうから、 全体を攪拌してゆく。 暖かい空気の流れから水を絞り出すイメージが重要) 勇者「雷鳴よ、大気を切り裂き、黒雲を呼べっ。 全てを包む豪雨をもって結界とせよっ。“招嵐万雨呪”っ!」 857 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 20 50 57.31 ID quxpU4cP ――開門都市近郊、聖鍵遠征軍中枢 地方領主「行けっ! 突撃だぁ!」 小国国王「防壁は崩れたのだ、数で押せ! 攻めこめぇ!!」 光の銃兵「うわぁぁぁ!! 精霊は求めたもうっ!」 光の槍兵「勝った! 勝ったんだ!! 食い物をよこせぇ!!」 カノーネ兵「撃てぇ! 敵は弱っているぞ。撃ちつくせっ!!」 小国国王「団長、構えて乗り遅れまいぞっ!」 小国騎士団長「ははっ!」 小国国王「開門都市が陥落したとなれば、 その財貨はいかほどになろうか? こたびの遠征には多大な費用がかかっているのだ。 城にいち早く乗り込み、全ての宝物を略奪せよっ」 ドォオォォン!! ドォォオン!! 地方領主「進め! 進めぇ! 今回の遠征第一の功は我らのものだ! 王弟元帥閣下と大主教猊下に覚えて頂くためにも、農奴どもよ! 死にものぐるいで進め! 死体なぞ放っておけ、そいつらは犬の餌にもなりはせぬ! 進んで進んで、火薬の尽きるまで魔族どもを撃ち殺すのだっ!!」 ドォオォォン!! ドォォオン!! ゴォォォォン! ズドォォーン!! 農奴槍兵「もう、ダメだ……。俺は我慢できないっ」 農奴突撃兵「なっ。どうするつもりなんだよ?」 農奴槍兵「このどさくさに紛れて、領主様の糧食を盗むんだ」 農奴突撃兵「えっ!?」 農奴歩兵 ごくり 農奴槍兵「領主様だけは毎日肉やミルクやパンをどっさり 食っている。俺たちから巻き上げた食料でだ。 王弟元帥閣下が奪ってきてくれた食料を奴らは俺たちから 取り上げて、これ見よがしに浪費しているんだ」 859 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 20 52 48.98 ID quxpU4cP 農奴突撃兵「そ、それは、反乱っじゃ……」ごくり 農奴歩兵「おい、い、いいのかっ」 農奴槍兵「反乱なんかじゃない。 だってこのままじゃ、俺らは突っ込まされて、 結局は戦いで死ぬだけじゃないか。 死ぬくらいなら、最後にパンを食って死にたい……」 農奴突撃兵「……」 ドォオォォン!! ドォォオン!! 農奴槍兵「それに、いま領主の騎馬部隊は 開門都市に突撃をしていて、食料をたっぷり詰め込んだ 天幕も馬車も、見張りを数人置いているだけだ。 これは反乱なんかじゃない。 褒美を前払いしてもらいたいだけなんだ」 農奴突撃兵「う、うん」 ドォオォォン!! ドォォオン!! 農奴歩兵「そうだ。食料を奪って配ろうじゃないか」 農奴突撃兵「えっ!?」 農奴歩兵「だって、開門都市はもう陥落するんだろう? そうすれば、食料だってどっさり手に入るはずだ。 だとすれば、俺たち兵士が少しくらい食ったって 問題ないじゃないか。 どうせ俺たちだけじゃない。みんなだって腹が減っているんだ」 農奴槍兵「そうだなっ。精霊様だってお許しになるはずだ」 農奴突撃兵「奪って、食料をばらまきながら軍の反対側に抜けよう」 農奴歩兵「そうだな。それなら他の奴らにも、声を掛けないと」 866 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 21 25 08.46 ID quxpU4cP ――開門都市近郊、聖鍵遠征軍本陣内、豪奢な天幕 ちゅぷ、くちゃぁ。ころり、ころり。 大主教「……動いた」 従軍大司祭「は?」 大主教「至急、司祭を集めよ。全てのだ。 かねてから用意させていた祈祷を行なわせる」 従軍大司祭「対黒騎士の、ですか?」 大主教「急がせよ」 従軍大司祭「は、はいっ! ただいま!」 大主教「司祭よ」 見習い司祭「はっ、はいっ!」 大主教「天幕の布を二重に。雨が降る」 見習い司祭「え? 今日も良い天気ですけれど」 大主教「いいや、降るのだ」 ちゅぷ、くちゃぁ。 見習い司祭「は、はいっ。そ、そ、それは?」 がくがくがく 大主教「精霊の光を見せてくれる、わしの眼だ。 口蓋は脳と通じる髄液を出すという。 舌の上でころがす度に、 我が心は清澄なる恩恵の光で満たされるだよ。 くっくっくっ。ふぅっふっふっふ」 見習い司祭「す、す、すっ。すみませんっ」 大主教「やはり、これだけの“死”に我慢しきれずに 誘われいでたか。……黒騎士よ。 魔王の首で門を開けることになるかと思ったが、 もはやどちらでも構わぬ。 いや、“勇者”であればさらに都合がよい。 その力も我が使いこなして見せよう。 必ずや捕縛祈祷で捉え……その力の全てを奪い取るのだ」 871 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 21 31 35.37 ID quxpU4cP ――聖鍵遠征軍、本陣上空 ゴォォォオオオオ!! 勇者「気圧低下……。こっから冷却して……っ」 ゴォォォオオオオ!! 勇者「招雨っ!! 来たれぇ!!」 ザアァァァァアア!!! 勇者「よっしゃ。――んじゃま、今度は落雷でもサービスすっか」 勇者(……当てたくはないな。適当な鐘楼とか、地面とかにでも) ビギィン!! 勇者「なっ。んだ……これっ」 ギリギリギリっ 勇者「力が……。吸われ……っ」 夢魔鶫「主上っ!! 主上っ!」 勇者「逃げろ、つぐみ……」 夢魔鶫「主上っ。このままでは落下してしまいますっ。 飛行を、魔力をっ!! このままでは、嵐に巻き込まれてっ」 ギリギリギリっ 勇者「……だめ、っぽ。……うっわぁ、二回目。 かっこわる……。痛いなんて……もんじゃ……」 夢魔鶫「主上~っ!!」 勇者「……魔王。……だって……こんな……」 874 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 21 35 54.77 ID quxpU4cP ――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線、後方戦線 軍人子弟「急げ! まだ馬が使えるっ」 ザッザッザッ 鉄国少尉「まだマスケットは届かないぞ! 落ち着いて作業と進軍を進めろっ!」 女騎士「マスケットの射程ぎりぎりまで装甲馬車を進めよう」 軍人子弟「了解したでござる」 鉄国少尉「馬車と馬車の間は五十歩の間隔を守れ。 前線に到着したら鉄盾の配置を忘れるな! 命を守る盾だぞっ」 ザッザッザッ 将官「医療部隊の配置完了」 女騎士「……」 鉄腕王「どうしたい? 騎士将軍」 軍人子弟「まだなにか?」 女騎士「いや。なんでもない。ただ……」 軍人子弟「?」 女騎士「胸の奥がざわざわするんだ」 ゴゥゥン!! 878 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 21 40 51.64 ID quxpU4cP 伝令兵「前線接触!! 遠征軍のマスケット銃撃が始まりました! しかしまだ遠距離なことと我がほうの装備もあり、実質被害無し」 軍人子弟「威嚇でござる! 進め! いまのうちに有利な位置を取るのでござる!」 冬寂王「はじまるな」 鉄腕王「ああ。大丈夫だ。あの男は、人一倍小心者だ。 だから勝つためならこすっからいことでもやる」 冬寂王「ずいぶん褒めるではないか」 鉄腕王「女に弱いところ位だな。ダメなのは」 冬寂王「はっはっはっ。貴君と一緒だな」 ゴォォン! ドオッォン! 軍人子弟「よしっ。車止めにて固定っ! 合図を」 女騎士「……」 軍人子弟「宜しいですか、騎士師匠」 女騎士「ん。ああ。すまない」 軍人子弟「……師匠っ」 女騎士「なんだ?」 軍人子弟「采配をよこすでござるよ」 女騎士「え?」 軍人子弟「……大丈夫でござる。ここは任されたでござる」 女騎士「子弟……」 軍人子弟「今は駆け出す時でござるよ。 心配で心配でたまらぬのでござろう? 今ならば騎士団を都市の反対側に迂回させることも 不可能ではござらん。ここはいいでござる。騎士師匠」 女騎士 こくり 軍人子弟「ご武運をっ!」びしっ 女騎士「感謝するぞ! 我が弟子よっ!」ばっ 「お前は、まだまだだっ。終わったらまたしごいてやるから 死んだりしては駄目だからなっ」 軍人子弟「それはお互い様でござるよ。 ……街を人々を頼むでござるっ。そして再びっ」 ページトップへ <前11-3へ|次11-5へ>
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ただいま新wikiに移行作業中…ttp //wikiwiki.jp/bokumaka/ - 2014-04-05 13 22 29 なんか今週くらいから異様に宝箱の量と質が悪化したような。魔神の羅針盤×2で150分到達がザラ・・ - 2013-06-28 21 15 09 体感先輩ちーっすw - 2013-07-21 22 16 42 近衛ゾウ兵DEX710で先制、DEX511で先制不可 - 2013-02-20 23 42 20 羅針盤無しだと6時間32分だたよ - 2013-01-05 06 44 52 サブナック5-Tで救出 - 2013-01-04 20 19 54 ヴィネ 5-4で救出 - 2012-12-22 14 45 54 自分も。Jだけじゃないんだね - 2014-03-10 06 11 27 とりあえず5T消して5Jの追加など変更しました - 2012-12-21 21 19 34
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<前4-6へ|次5-2へ> 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」5-1 8 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage_saga]:2009/09/13(日) 18 18 24.27 ID 6HXLExsP ――開門都市、自治議会、執務室 東の砦将「こいつぁ……。本当なのか?」 副官「はい」 魔族娘「……あの、ほ、ほ……。本当なんです」 東の砦将「……っ」ぎりりっ 副官「三日ほど前からゲート方向へと移動する 蒼魔族の部隊も目撃されています。規模は不明なれど 1000以下ということはないかと」 東の砦将「警告を送ることも出来ないのか」だむんっ 魔族娘「ひっ。す、す、すみませんっ」 東の砦将「いや、すまん。気が立っちまった」 副官「……」 東の砦将「問題はこの手紙の主か……」 副官「はい」 「――魔族に敵対をしていた南部諸王国三ヶ国は 中央の国家連合と戦争を行う事になった。 南部諸王国三ヶ国は目下防御が弱体化しており、 海岸部、および首都の後背は丸裸同然。 領土を増やし民を“黄金の太陽の大地”へ導くのには 絶好の好機かと、ご報告申し上げる」 9 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage_saga]:2009/09/13(日) 18 20 33.52 ID 6HXLExsP 東の砦将「こいつぁよ」 副官「はい」 東の砦将「人間だよな。ああ、人間だよ。 俺には判る、間違いないね。人間だ。 この手紙からは、人間くさい匂いが、腐った人間の放つ あのいやーな匂いがぷんぷんしやがる」 副官「……」 東の砦将「嬢ちゃん、そいつはどんなやつだったんだい?」 魔族娘「あの。わたしも見ただけで……。 その手紙は……掏摸の子供から、買ったんです。 で、でも……。 その商人は、たしかに蒼魔族の人と会ってました……。 えっと、背は副官さんくらいで……。 でも、横幅は、細くて、フードかぶっていて……。 なんか、その……呼吸音が、変で」 東の砦将「変?」 魔族娘「漏れるような……蛇みたいな……」 東の砦将「喉の裂傷か、病か?」 副官「手配しましょう」 東の砦将「もう街に残っちゃ居ないと思うが、そうしてくれ。 魔族も人間もかまわずチェックだ。 くそっ。いったい何がどうなってるんだ。 これ以上ドンパチ続けてどうなるってんだ!」 15 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/13(日) 18 37 49.43 ID 6HXLExsP ――地下世界への旅 ヒュバァァァァァ!! 勇者「……魔界?」 「……魔界じゃない。地下世界」 勇者「地面の下に、魔界があったのか!?」 「そう」 勇者「……っ」 「……そもそも転移呪文は、瞬間移動呪文。 ……次元跳躍呪文では、無い」 ガクンッ! ガクンッ! 勇者「うわぁっ!?」 「高度を低く」 勇者「何でだよっ」 「地下には引力がない。斥力が代替している」 勇者「引力? 斥力?」 17 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/13(日) 18 41 03.76 ID 6HXLExsP 「……引力は、大地がものを引く力。この力で、物は落ちる。 斥力は、物を押す力。地下世界では、碧太陽が斥力で 万物を地面に押さえている。 ……押さえないと、浮き上がるかもしれない」 勇者「なんで飛行呪が不調になるんだ? 関係があるのか?」 「……地下世界では、碧太陽に近づくほど斥力が強くなる。 高く飛ぶことは不可能」 勇者「本当なのかよ」 「本当」 勇者「……訳がわからない」 「判るべき」 勇者「なんでっ?」 「いまは魔王が大事」 勇者「何処にいるんだ? あいつはっ。どうなってるんだ」 「“魔王”になりかけている」 勇者「判らないよっ」 「魔王城、その地下深く」 20 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 18 43 28.39 ID 6HXLExsP 勇者「判った!!」 ヒュバァァァァァ!! 「……魔王の代わりは」ザリッ!「……わたしがする」 勇者「は? なんか変な音がしたぞっ」 「通信の、距離限界。……人間界の援護は、わたしがする」 勇者「出来るのか?」 「……まかせてちょんまげ」 勇者「……」 「……おまかせくださいこのくそ童貞」 勇者「……」 「……」 勇者「わ、わかった。深くは聞かない。頼んだ」 「了解」 勇者「あのさ」 「……」 勇者「来てくれて、ありがとうな。……すげー助かった」 「……いってきて」 ザリザリッ! 「まってる」 22 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 18 45 06.67 ID 6HXLExsP ヒュバァァァァァ!! 勇者「ここかっ。警備兵どもは居るのか? まぁいいさ。 強行突破だ、このまま行くっ。……“加速呪”っ!」 キュイィーンッ! 勇者「……魔法使い、おい」 勇者「……おいっ」 勇者「流石に通信限界か。 ――誰もいないな。 最下層、目指すぜ。たしか、こっちへ……」 キュイィーンッ! 勇者「宝物庫を抜けて、回廊を抜けて……三層……」 ドカッ! ガシャン! 勇者「あとで壊したの謝るからなっ! 五層っ!」 ガチャン! キュイィーンッ! 勇者「七層っ! なっ、なんだっ!?」 オオオーン! オオオオーン! 勇者「どす黒い……。こんな魔素、はじめてだぞっ。 魔王……なのかっ。こんなに戦闘能力があるのかっ」 27 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19 01 36.12 ID 6HXLExsP ――大陸草原、雪の集合地 女騎士「揃ったようか?」 将官「はい、中央征伐軍、どうやら予定数をそろえたようです。 中央の天幕に主だった貴族、領主が集合。全体軍議を始めました」 女騎士「総数は?」 将官「総数四万近いですね。うち、兵力は二万八千です。 そのほかは非戦闘要員と見えます。うち騎馬兵力は九千。 全て望遠鏡部隊により目視確認」 冬国兵士 ごくりっ 女騎士「気にするな。喧嘩にならなければ 数が多かろうが少なかろうが関係ない。 いや、少ない方が財布に優しい分、勝ちだ」 冬国兵士「はっ、ははは、はいっ。姫騎士将軍の仰せのままにっ」 女騎士「で、今日の付け届けは?」 将官「はい。氷酒30樽、猪三頭、豚六頭を手配しておきました」 女騎士「ん。それで今晩も宴会だろうな」 将官「はぁ」 女騎士「自信なさそうだな」 将官「いえ。カツアゲされてる気分がちょっぴりわかったり」 女騎士「考えたらダメだ。考えない方が強いんだ」えへん 将官「それはそれでどうかなぁ」 28 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19 03 14.49 ID 6HXLExsP 女騎士「次は飼い葉だな」 将官「飼い葉、ですか?」 女騎士「ああ、あれだけの馬が居るとなれば、 大量の飼料が必要だろう? エン麦やカラス麦、干し草なのだろうな。 もちろん馬車でそれらを輸送してきた領主もいるだろうが 大半の領主は現地で買い上げるつもりだろう。 金貨の方が持ち運びやすいのは明らかだ」 将官「はぁ」 女騎士「付近の農家に根回しを続けろ。 今度はもうちょっと広範囲に広げるつもりがあるな。 商人風を装え。軍が来ているから、干し草を持っていないと 嫌がらせをされるかもしれない、と、それとなく云うんだ。 このあたりの農家は、三ヶ国同盟には同情的だ。 用意してきた干し草やカラス麦を買って貰え。 場合によっては、同情した態度で無料で分け与えても良い」 将官「どんな意味があるんです?」 女騎士「ああ。持ってきた飼料は腐り水を吸わせてあるんだ。 もちろん、馬が死ぬような物じゃない。 ただ体調は崩すだろうな」 29 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19 04 56.20 ID 6HXLExsP 女騎士「馬の体調が崩れれば、開戦日の指定が困難になる。 もし会戦したとしても、突撃力が明らかに鈍る。 騎士の取る戦術ではないが、今回は許して貰おう」 将官「なんで飼料にしたんですか?」 女騎士「人間の口に入る物であれば、毒味もするだろうし、 毒物の選定にも気を遣わざるを得ないだろう? そこへ行くと、馬の飼い葉を毒味するやつなんていやしない。 馬にはちょっぴり可哀想だけどな。 戦争になれば、死ぬ馬も沢山出てしまう。 その件で許してもらえれば良いな」 将官「それはまぁ、流れ矢に当たった馬なんて 息絶えるまで血の泡を吹いて半日以上苦しんでいたり 軍人のわたしでさえ沈んだ気分になりますからね」 女騎士「よし、指示を伝えてきてくれ」 冬国兵士「はいっ」 将官「これで、数日は稼げますかね」 女騎士「粘るしかないな」 将官「次の手は?」 女騎士「まだ三つ四つは考えているのだが」 将官「ほう?」 女騎士「敵陣の前で熊と素手で戦ってみせるとか?」 将官「それだけは勘弁してくださいっ。イメージが壊れます」 41 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19 34 29.89 ID 6HXLExsP ――冬の王宮、謁見の間 女魔法使い「……くぴぃ」 女魔法使い「……すぅぅ……すぅぅ」 冬寂王「……」 女魔法使い「……んぅ。……くぴぃ」 冬寂王「あれは一応玉座だぞ?」 商人子弟「ええ」 従僕「変な女の子……」 女魔法使い「くふぅ……」くてん 冬寂王「我が王座に何でかような少女が寝込んでいるのだ」 商人子弟「さぁ……」 従僕「……」そぉっ つんつん 女魔法使い がぷっ 従僕「っ!?」びくっ 冬寂王「危険な刺客かもしれんっ」 商人子弟「……」こくり 42 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19 36 05.88 ID 6HXLExsP 女魔法使い「っ!」 もそもそ 冬寂王「ぬっ」 女魔法使い「くかぁ……。んにゃむにゃ」 しーん 冬寂王「……」 かちゃ 執事「若。お茶が入りましたぞ。気を取り直して 書類などあああっっ~!?」 冬寂王「爺、どうしたのだ?」 執事「ま、魔法使いっ。ぬし、いままで何処にっ!」がしっ 女魔法使い「……」ぼへぇ 執事「どこにいってたんですかっ。 勇者も女騎士もさんざんに心配していたんですよっ。 多量のよだれを流している場合ではありませんぞっ」 女魔法使い「……ねていた」 執事「あなたって人はまったく。まぁ、勇者が居ないので いまはまだ正常のようですね」 45 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19 38 12.28 ID 6HXLExsP ――冬の王宮、謁見の間 執事「紹介しましょう。彼女がかつての勇者の仲間、 3人のうち1人。女魔法使いです」 女魔法使い こくり 執事「この状態の時は安全です」 女魔法使い ぼやぁ 冬寂王「この方も伝説の英雄なのか?」 商人子弟「まさかぁ」 執事「そのとおり。彼女こそパーティーの広域殲滅担当。 108の呪文を修めかつては“出来の悪い悪夢”“昼寝魔道士” と呼ばれた最強の魔法使いです」 女魔法使い「……わたしは“ごきげん殺人事件”っていうのが好き」 冬寂王(小声で)「間合いが取りずらいお嬢さんだな」 商人子弟(小声で)「僕も感じてました」 執事「いや、この娘、やる時にはやり過ぎてしまう娘ですぞ」 冬寂王「……あまり決まってないような印象だな」 商人子弟「凄さが判りずらい感じですね」 48 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19 40 20.16 ID 6HXLExsP 女魔法使い「……寝る」 執事「いま寝られると困ります。勇者とは会ったんですか」 女魔法使い「会った」 執事「勇者は?」 女魔法使い「魔界と呼ばれていた場所へ向かった」 冬寂王「……やはり、そうか」 商人子弟「こちらはわたし達だけで持たさなければなりませんね」 執事「それで、勇者は何か? 何を知っておるんですか」 女魔法使い「まお……紅の学士から指示を預かってきてる」 冬寂王「っ!?」 商人子弟「学士様とお知り合いなのですかっ?」 執事「旅に出ていると聞きましたが……」 冬寂王「して、どのような?」 女魔法使い「……おしえない」 冬寂王「なにゆえだっ」 執事「学士様とは知り合いなのですか?」 女魔法使い「……学士は、ゆるいところがあるので。 胸とは言わない。胸はゆるいというより、たぷたぷ。 それから、わたしと学士は、同じ一族。親戚。姉妹?」 冬寂王「ご親戚だったのか」 50 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19 42 22.49 ID 6HXLExsP 女魔法使い「……それに」 執事「それに?」 女魔法使い「……すぅ」 執事「おきてくださいっ」がくがくっ 女魔法使い「……学士は、こちらの状況を、知らない。 戦争になっていると、思っていなかった。 ……だから、指示は、かなり。無駄」 冬寂王「そうか……。そういえばそうだったな……」 女魔法使い「……でも、手を打つ」 商人子弟「どんなです?」 女魔法使い「……偶蹄目の動物である家畜を用いて その危険性を弱毒化により減少させたウイルスを、 意図的に患者に罹患させることにより、 ……近縁種への排他的抵抗性、すなわち免疫を獲得させる治療法、 およびその一般への啓蒙と頒布、接種体制を確立させる」 冬寂王「?」 商人子弟「……えーっと、判ったか?」 従僕「さっぱり判りませんー」 うるうる 女魔法使い「……」ぽけぇ 冬寂王「もうちょっと判りやすく頼めるだろうか?」 女魔法使い「天然痘の予防体制を成立させる」 52 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19 48 48.44 ID 6HXLExsP 冬寂王「っ!?」 商人子弟「何を仰っているのか、判っているんですか!?」 執事「天然痘と云えば……。この大陸の悪夢ですぞ!? 年間100万人とも、300万人ともいわれる死者を出す……。 全身に広がった疱瘡や膿、かさぶたは たとえ治癒したとしても、一生その傷跡を残す悪魔の病気。 罹患者を出した家は焼き討ちされるほどの業病ではないですかっ」 女魔法使い「……知ってる。研究したから」 冬寂王「女魔法使い殿は、学者でもあられるのか」 商人子弟「そうなのですか?」 女魔法使い「……専門は伝承学」 冬寂王「な、なるほど」 商人子弟「もし本当だとすれば、 これは全人類にとって未曾有のニュースになりますよ」 従僕「ぼくの、お父さんの弟も天然痘で死にましたー」ぐすっ 執事「身内を天然痘に奪われたことの ないものなどこの大陸には居ないはずですぞ」 冬寂王「うむ、うむっ」 54 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19 51 24.01 ID 6HXLExsP 女魔法使い「……治療法ではない。予防法」 冬寂王「それにしたって同じくらい意味のあることだ」 商人子弟「どうするのです?」 女魔法使い「……薬のような物を作って、 接種という方法で感染させる。 軽い病気になるけれど、天然痘にはかからなくなる」 執事「なるほど。一度天然痘の治った患者は、二度と 天然痘にかからないというのと似ているわけですな」 女魔法使い「……同じ仕組みを使う」 こくり 冬寂王「効果のほどは?」 女魔法使い「……約7年」 冬寂王「ふむ、素晴らしい吉報だ」 女魔法使い「を……」 冬寂王「?」 女魔法使い「三ヶ国同盟および協力諸国の国民は 1人金貨10枚で利用できます」 冬寂王「……っ!」 女魔法使い「そうなったら、いいなー」 56 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19 54 04.47 ID 6HXLExsP 冬寂王「それで、風向きが変わるなっ」 商人子弟「ええ、確実に。停戦に向けた動きが可能です」 従僕「す、すすごいやぁ!」 女魔法使い「……そしてわたしは魔族です」 冬寂王「へ?」 執事「何を冗談を言ってるんですか。魔法使い」 女魔法使い「……みたいな」 冬寂王「……」 商人子弟「……」 従僕「?」 女魔法使い「……おね、がい」くてん 冬寂王「つまり、天然痘の予防方法は、 魔族から技術的に供与されたと?」 女魔法使い こくり 冬寂王「そのように広めてくれと云うことだな?」 女魔法使い こくり 58 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19 56 26.35 ID 6HXLExsP 冬寂王「…………」 女魔法使い「……」 商人子弟「王よ……。わたしからもお願いします。 もう、王にだって、前線の兵士にだって少しずつ 判ってきているのではないですか? 確かに魔族は強大で奇怪な姿をしていますが、 言葉を持つ、知的な種族です」 従僕「……」 執事「……」 商人子弟「進んで友好関係を築くとか、そう言う事じゃないんです。 でも、一方的に精霊の敵呼ばわりして、 こちらから反感を煽らなくても良いのではないでしょうか? もちろん武力侵攻してくれば戦います。 そいつらは敵なんですから。 ただ、人間にも様々な国があるように、 魔族にも様々な国や派閥がある可能性があります。 魔族を知らないで、このまま戦ったとしても 勝つことはおぼつかないのではありませんか」 冬寂王「なぜ……。魔法使い殿はそれを望む?」 女魔法使い「……なぜ?」 冬寂王「なぜ、魔族と我らの仲を取り持とうとする」 60 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19 58 48.13 ID 6HXLExsP 女魔法使い「……すぅ」 執事「いちいち眠り込まないと話も出来なくなったかっ」 女魔法使い「……“出来の悪い悪夢”は飽きた」 従僕「……」 女魔法使い「……眠りには、良い夢が望ましい」 冬寂王「そう……か……」 商人子弟「……」 冬寂王「確約は出来ない。中央はともかく民の反応が気になる。 だがしかし、冬寂王の命ある限り、その言葉胸に留め置き 決して無為なる血が流されぬように尽力しよう」 商人子弟「ありがとうございますっ」 執事「魔法使い……」 女魔法使い「……魔族です。本当ですよ」 きゅるるっ 冬寂王「はははっ。腹ぺこ魔族のようだな! どうだろう。 我が城の厨房を襲撃しようではないか。 ここにいる全員で襲いかかれば、 何らかの食事にはありつけよう」 86 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21 29 03.95 ID 6HXLExsP ――鉄の国、首都周辺、修道院の建物 鉄国少尉「洗浄を急げっ! 水を絶やすなっ!」 軍人子弟「布は煮沸するでござるよっ! もっと布をっ!」 鉄国兵士「市民が支援に名乗り出ていますっ。 いかがしたらよろしいでしょうっ?」 鉄国少尉「いかがしましょう?」 軍人子弟「もちろん有り難いでござる。 水の用意を、それから炉をさらに作ってもらうでござる! 鍋を借りてきて湯を沸かせっ」 即席兵士「搬送入りますっ!」 白夜軽騎兵「うううっ!!」 鉄国少尉「白夜の……」 軍人子弟「考えるなっ!! 傷病者の手当は鉄腕王の裁可でござる! 分け隔てすることなく、重傷者から判別用ハンカチを結びつけよ! 軽傷者は野外テントへ搬送っ、市民に手当をしてもらうでござる。 中傷者は修道院内部へ、止血および蒸留酒による消毒っ」 鉄国兵士「はっ!」 ザッザッザッ 白夜軽騎兵「うううっ。死ぬっ、もうダメだっ」 軍人子弟「しゃっきりするでござる! その傷では死ぬどころか休暇にもならないでござるよっ」 87 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21 31 56.43 ID 6HXLExsP 鉄国兵士「報告しますっ!」 軍人子弟「聞こうっ」 鉄国兵士「集計終わりました。 我が軍は、死者18名、負傷者221名。 白夜国は死者304名、負傷者892名、捕虜450名。 なお、副指揮官と思われる死体は確認されましたが 指揮官と目される片目の男は、死体および収容者の中では 確認できませんでしたっ」 鉄国少尉「困りましたね」 軍人子弟「帰っていてくれれば、 それはそれで好都合でござるが……」 鉄国少尉「そういうものですか?」 軍人子弟「下手に隠れられるよりも、少ない兵で 出直してきてくれるなら、察知もしやすいでござるしね」 鉄国少尉「そう言えばそうですな」 即席兵士「あっ。将軍だっ!」 ああ、将軍だ! すごいだべ! 完璧だたぜぇ そうさ、将軍の命令で一列に矢が飛んでいったんだ! 軍人子弟「は?」 即席兵士「将軍! 大勝利! 万歳!!」 万歳! ばんざーい!! 万歳っ! ばんざいっ! 軍人子弟「ちょっとまつでござるよ。拙者は将軍では ないでござる。ただの街道防衛部隊指揮官でござるよ」 88 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21 33 38.24 ID 6HXLExsP 鉄国少尉「まぁ、良いではないですか」 軍人子弟「しかし、違うでござる」 鉄国少尉「一般の市民やこの間まで農奴だった開拓民に 軍隊内部の階級や呼称なんて判るわけがない。 あの将軍っていうのは “格好良い”っていう意味なんですよ」 軍人子弟「――格好……良い?」 鉄国少尉「ええ、そうですよ。 開拓民の倅の俺が言うんだから、まちがえっこありません。 それにね、そんな格好良い、 英雄みたいな将軍に“ありがとう”。って思った時 学のねぇ頭の悪い連中や、俺たちは 万歳って云うしかないんですよ」 軍人子弟「……そ、そうでござる……か?」 鉄国少尉「ええ。“将軍”! 今日の戦いは見事でした! 俺たちはきっと孫が生まれても語り継ぎますよ。 そのためにも、まだ続く戦、頑張っていきましょうっ!」 軍人子弟「そ、その……よろしくでござる」 即席兵士「将軍っ。あ、あれ? どちらに?」 軍人子弟「斥候が心配でござる。まだ行動可能な体調なものに 食事と休憩をてはい、その後再編成して巡回部隊を組織すること。 拙者、王宮への報告および、見回る場所があるでござる」 94 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21 48 36.62 ID 6HXLExsP ――ふかいふかい、ねむりのなかで 「なんだ……寝苦しいな……」 「う……うん……」 「まったくべたつくような夜気だな。絞ったタオルでも メイド長に持ってきて貰わねば、やりきれ……」 「えっと」 「あれは、誰だ?」 ――。 「あれは、わたしじゃないか」 ――。 「うわぁ、これが幽体離脱という物なのか。初めてではないか」 ――。 「うーん、本体の方がああもすやすや眠っているところから 推察すると、この寝苦しさは何らかの霊現象もしくは精神的な 失調と関係があると推測して良さそうだな」 95 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21 49 37.98 ID 6HXLExsP ――。すぅ 「おお。本体が起きたぞ。 すると幽体離脱中でも本体の活動は別口なのか? 興味深い事象だなぁ」 ――。 「こうしてみると、わたしも捨てたものじゃないではないか。 どこぞのメイド長に虐められてすっかり卑屈だったが ぷにってるはぷにってるが、こう……よいのではないか? 人間界に出てみれば女性の胸は大きくても良いと云うではないか。 腰回りも無駄でなければ、多少肉がついていた方が 女らしいわけで……母性本能や癒しが足りないと云われれば それはそうだが、こうやって客観的に見ると色気だって おい。おっ、おいっ!」 ――。 「わたしの身体っ! 色っぽいのはかまわないが 何でそういやらしい仕草をするんだっ。 色んな方面への謝罪対応に追われるような表情をするなっ。 わっ、わたしの身体なんだぞっ! 調査しなくても知っているではないかっ! ど、何処を触っているんだっ。 っていうか、たのむ、その姿勢は止めてくれっ。 胸が揺れすぎるからっ」 99 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21 53 14.78 ID 6HXLExsP ――しゃ。 「は?」 ――ゆうしゃ。 「はぁぁぁ!?」 ――ゆうしゃ。 「どっ、どこからとりだしたぁ、そのイメージっ! いや、わたしの中からだろうという想像はつくが どういうつもりだ身体っ! わたしをのけ者にして何をするつもりだ、はっきりとした 返答をして貰おう期限は二秒だ12終了だ、応えろっ!」 ――ゆうしゃ。 「待てっ。その手を止めろっ。 いくら身体が相手だろうがわたし自身が相手だろうが それはわたしの所有物だぞ、 一切手を触れることまかり成らんっ。 いまこそ云ってやろう!! この駄肉っ! そのえろっぽい手をどけろっ! それはわたしのだっ! わたしが先にもらったんだ! おまけにわたしは、それのものなんだっ! 駄肉風情が駄肉を捧げて手に入れられるなどと考えるなぁっ!!」 102 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21 58 58.12 ID 6HXLExsP ――冥府殿、闇の奥底 きぃいっぃぃっいぃぃいっぃん!! メイド長「勇者ッ!」 勇者「どっけぇぇ!!」 メイド長「む、無茶ですっ! 勇者っ! この中は魔王しか入れない玄室っ! 歴代魔王の残留思念がうずまいているんですよっ!?」 勇者「無茶を通せない勇者なんて、存在の意味があるかぁっ!!」 ズガァアーン!! 魔王「――」 オオオン!! オオオオン!! 勇者「おいっ! 魔王っ! 魔王っ!」がくがくっ メイド長「だ、大破壊!?」 106 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 22 01 45.12 ID 6HXLExsP 魔王「――我の」 メイド長「勇者様っ! 殴って!!」 勇者「へ?」 魔王「――我の玄室へ」 メイド長「急いでっ!」 ぼぐっ 魔王「――」くたっ オオオン!! オオオオン!! 勇者「なんだってんだ?」 メイド長「昔の魔王の悪霊に取り憑かれちゃい かけてるんです! 中身が別物というか……」 勇者「ああ、そういうことか。理解した」 メイド長「いや、汚染でした。どうすれば良いんですかっ」 魔王「――我ヲ」 勇者「おい、魔王っ! 魔王っ! 正気に戻れ」 ぼぐっ 魔王「――」くたっ 116 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/13(日) 22 07 33.06 ID 6HXLExsP 勇者「おい、魔王っ! 何が“魔王にしかできない”だよ。 強がりやがって! 自分を生け贄にして天災静めようとか そういう聖人じみた行動とってんじゃねぇよっ しまいにゃ食べてまうぞ、このぷに肉っ! おまえが柄でもなくこんなところで身を捧げたから 偽者だったはずのメイド姉の方だって 勢い余って聖人になっちまったんだぞっ!」 ばしっ! ばしぃっ! 魔王「ゆウしゃ」 勇者「もどったかっ?」 魔王「――本物ダ」 勇者「嘘つけ、この旧世代っ!」 魔王「この我のものとなれ、勇」勇者「断る!」 魔王「我と共に来れば、貴様にはこの世の半」勇者「断る!」 魔王「ナ――ぜ――」 勇者「良いか、良く聞け時代遅れのポンコツ魔王っ! 何が半分だこの詐欺師! そもそもお前のものでも無いくせに 勝手に譲渡しようなんて片腹痛いんだよっ。 そういう誠意の無い態度で勇者が口説けると思ったら大間違いだ! そんな化石化した台詞はなっ “今時の魔王が言っちゃいけない台詞集”にも ばっちり収録されてるんだよっ!!」 魔王「ナっ――」 122 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 22 12 31.22 ID 6HXLExsP 勇者「それになっ!」 ぎゅむっ 魔王「!?」 勇者「これは以前から俺の売約済みなんだっ。 俺のものなんだ。契約をしたんだよっ。 お前が占拠しようが、汚染しようが、俺のものなんだよっ!」 魔王「――何ヲ」 勇者「そうだよな、魔王っ!」 魔王「――云ッテ」 勇者「そうだよな、おいっ。聞いてるのか魔王っ!!」 メイド長「まおー様っ!!」 魔王「――何ヲ巫山戯タ」魔王「黙れ」 ……オオオン!! ……オオオオ……ン!! ……オオ……オオ……ンッ 魔王「黙れ、駄肉め……。 これでは甘やかな再会が台無しではないか」 勇者「甘いもなにもあるかっ。この強情魔王っ」 魔王「待たせたな――わたしの勇者」 勇者「寝坊しすぎだぞ――俺の魔王」 396 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00 30 03.82 ID 498vELIP ――鉄の国、ギルド街、職人通り 片目司令官「はぁっ、はぁ、はぁ……」 ズキィッ! 片目司令官「ッ!! ぐっふぅ、がふっ! がふっ! 疼く、疼くぅ……。ここまで我を苦しめるか。 砦将よ、冬寂王よっ。いや、この汚濁全てが我が目を喰らうのか。 ~ッふ! ガフッ! アハッ! ギャハッ!」 ズルン、ズルゥン 片目司令官「はぁっ、はぁ、はぁ……」 片目司令官「だがな、作戦は最後まで秘すべきものだ? そうだろう? 白夜王? ここに魔女が居る。 はぁっ、はぁっ。ふはっ。ギヒッ。 ここに、世界にあの地下牢で見た闇をぶちまけて、 暗黒に引きずり落とそうと企む背教者が……。 ギャハッ! ガフッ!」 ……コッコッコッ 通りすがりの職人「将軍の凱旋だっていうさ」 通りすがりの徒弟「大勝利かぁ!」 コッコッコッ 通りすがりの職人「怪我をした人も多いらしい」 通りすがりの徒弟「ああ、今度こそお手伝いしなきゃな」 コッコッコッ…… 片目司令官「……ぎひひひっ。……行ったか」 397 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00 31 09.42 ID 498vELIP ――鉄の国、ギルド街、鋳造工房、印刷倉庫 ガチャ、ズチャ…… 「おねーちゃん。もう遅いよぉー」 「もうちょっとだけ、ね?」 片目司令官「はぁっ、はぁ、はぁ……」 「それにこの姿の時は、お姉ちゃんなんて呼ばないの」 「ぶーぶー。もういいじゃない」 「だーめ。一応あの演説を聴いちゃった人だっているんだし。 当主様が帰るまではこの姿で居た方が、 すこしでもみんなのためになると思うの」 片目司令官 にたり 「はいっ。次これでしょ?」 「あら、よくわかったわね?」 「覚えるよぅ。左の棚からねぇ。f、u、d、a、r……。ね?」「よく出来ました」「えへへ~」 片目司令官「……紅の魔女にも、家族が居るのか。 ふふふっ。背教者が人並みの家族だと? 聞くに堪えん。 その絆もろとも闇淵へ沈むが良い」 「ん~」 「できたぁ?」 「ん。できました。――新しい活版よ」 「刷ろう! 刷ろう~」 「それは明日、職人さんが来ないとね」 「そっかぁ。じゃぁ、ご飯買って帰ろう? わたし、親方さんに云ってくるね♪」 398 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00 32 31.96 ID 498vELIP ――鉄の国、ギルド街、鋳造工房、印刷倉庫 メイド妹「今日のご飯はなんだろー♪ 温かいスープに ちょっぴり黒パン、お豆の入った内臓煮込み~♪」 メイド妹「お宿のベッドはふかふかで~♪ おうちに帰るの待っている~きゃうっ!?」 片目司令官 にたぁり メイド妹「ごめんなさっ!? ……お、おじさんは ……だ、だ、だれですか?」 片目司令官「……」にやにや メイド妹「工房の人ですか? 工房の人は、 もう夜だからいませんよっ。お、親方に用ですかっ。 親方は母屋だからこっちにはいませんよっ」 片目司令官「我らに光と精霊の加護がありますように」 メイド妹「あ。修道会の人ですか?」ほっ ガシィッ! メイド妹「っ!?」 片目司令官「修道会? あんな異端と一緒にしないで貰おうか。 我は栄光ある第二回聖鍵遠征軍、駐屯司令官だよぉ。 ~ッふっふっふ! あはははっ! ギャハハッ!」 400 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00 33 48.45 ID 498vELIP ――鉄の国、ギルド街、鋳造工房、印刷倉庫 メイド姉「妹~? 妹~? 片付け終わったわよ~。 おなかすいたんでしょー? 宿屋に戻りますよ~?」 カツン、カツン、カツン メイド姉「もう、親方さんのところで 何かご馳走になっているのかしら? うーん。あの要領の良さだけは、本当にすごいんだけれど」 ガゴンッ! ゴゥーン メイド妹「~ッ! ~ッ!」 片目司令官「お初にお目に掛かりますな、学士殿っ」 メイド姉「だっ、誰ですっ!」 片目司令官「は? あはははは。ひゃっはっはっは!! そうか、そうであったな。失敬失敬。 我を知っているはずもないのか。農奴出身の売女よ。 ――我はな。お前の死神だよ。あははははっ!」 メイド姉「なっ」 メイド妹「~ッ! ~ッ!」 片目司令官「何をするつもりかって? 知れているだろう?」 メイド姉「妹を離してくださいっ」 片目司令官「はっはっはっは。そのような顔をせずとも。 なぁ、異端者。くぁっはっはっはっは!」 401 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00 34 43.81 ID 498vELIP メイド姉「……」きっ 片目司令官「まずは跪くが良い。精霊に詫びるのだ」 メイド姉「わたしは精霊様を信じています。跪くくらい なんでもありませんっ」 ぺたっ メイド妹「~ッ! ~ッ!」 片目司令官「お前のような下賎な商売女が精霊様の 名をかたるなっ! 跪けっ! 許しを請えっ! 己の罪を告白し、恥辱に涙を流せっ!」 ドガッ! メイド姉「……なんのっ。ことですっ」 メイド妹「~ッ! ~ッ!」 片目司令官「この位倉庫の中が貴様の懺悔室だと云うことだ。 くぅっくっくっぅ。あっはっはっはっは! だがしかぁし、そこに許しはないがなぁ」 ジャキンッ! 片目司令官「どうだ? 学士? この剣は。 貴様の二つ名と同じだよ。 紅の名にふさわしいだけの血を吸ってきている。 そうさ。ギャハハっ! 貴様にはここで、精霊の許しも得られず、 惨めにのたれ死ぬという裁きがくだされるのだよっ。 我が瞳の中の赤黒い地獄に賭けてなっ!!」 ヒュバンッ!! 404 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00 39 19.25 ID 498vELIP メイド姉「っ!!」 メイド妹「~ッ!」 ギキィン!! 片目司令官「何者だっ!?」 軍人子弟「ただの軍人で、ござるよ。うぉぉぉっ!!」 ズダンッ! メイド妹 ずるっ、びりっ「お姉ちゃんっ!!」 メイド姉「妹っ!」 片目司令官「そこをどけぇ!!」 ビュッ! ビュゥッ! シャッ! ジャッ! 軍人子弟「――っ。はっ! やっ!」 メイド姉「あ、あっ」 メイド妹「弟子のお兄ちゃんだぁ!」 ズシャァッ! 片目司令官「見れば青二才ではないかっ! 貴様などとっ くぐり抜けてきた地獄と苦痛が違うわぁっ!」 ザシャァッ! メイド姉「あっ! 腕をっ!」 407 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00 40 24.23 ID 498vELIP 片目司令官「ふふふっ。なんだ、貴様? はぁん。英雄気取りか? あ? この商売女を助けに飛び込みそれでどうにかなるとでも 思っていたのかっ!? あははははっ。この小坊主がぁっ!」 ギィンッ! 軍人子弟「拙者、ただの軍人でござるよ。 ――英雄でも勇者でもないでござる」 じりじりっ 片目司令官「ならば上官に道を譲るが良いっ!」 ギィンッ! 軍人子弟「指令系統の違い理解せぬのは ――単一独裁になれすぎた悪癖でござるねっ」 ギィン! ギィンッ!! 片目司令官「猪口才なっ! どうした、左手が痛むかっ! 防御が甘いぞっ! それっ! それっ! アハハハッ!!」 軍人子弟「――っ!」 メイド妹「お兄ちゃんっ!」 (重心を崩すなっ。相手の爪先を観ろっ。視線を観ろ。 ――ちがうっ! この不器用者っ! 見るんじゃない、観るんだよっ! それじゃお前が隙だらけになってしまうだろうっ!) ページトップへ <前4-6へ|次5-2へ>
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1.魔王と対決する存在である勇者 2.34代目魔王「紅玉の瞳」と対峙した本作の主人公の一人。本項ではこの人物について記述する 勇者とは、この物語の主人公の一人である。魔王に戦争をやめた場合、経済的破局により人界と魔界に多数の死者を出すという話を聞き、さらに色仕掛けを仕掛けられることによって、魔王と相互所有契約を結ぶ。そして、勇者は世界を改革しようとする魔王を支えることになる。 髪の色は暗く、つんつん、もふもふしている。 先祖に東方の戦士サムラーイがいる。 動向 魔王城で魔王と対決後、重傷を負い生死不明という噂を魔王がメイド長に流させた。 その後、白の剣士の偽名で冬越しの村村はずれの館に潜伏。魔王の改革に協力した。 冬越しの村(1年目秋~2年目春) 冬越しの村村はずれの館で、貴族子弟、軍人子弟、商人子弟に剣術を指南。 冬季は冬越しの村の森で田畑を荒らす猪や熊の駆除、氾濫を起こしそうな川の補修を行った。 黒騎士としての活動(2年目春~3年目年始) 2年目春、魔王より許可をもらい、魔界の過激派の粛清を開始。魔王より授けられた黒玉鋼の鎧兜を装備し魔王の守護剣士黒騎士を名乗って魔界で活動する。 2年目初夏、黒狼砦に攻め込み黒狼族と魔狼族を粛清、妖精女王を救出する。 2年目夏、黒騎士(勇者)は、火竜大公に開門都市攻略のため編成した竜族の軍の解散を求め、開門都市を来年の春までに奪還し魔王の直轄地にすることを約束した。 2年目秋までに、鬼腕族を討伐した。 2年目年末、年越祭で久しぶりに魔王と再会。 3年目年始、羽妖精や夢魔鶫に命じて幻術で第二次聖鍵遠征軍の戦意をそぎ、開門都市から撤退させる。さらに第二次極光島攻略作戦のときに都合よく極光島に到達するように調整する。 黒騎士が開門都市を解放すると、約束通り竜族の軍を解散し、さらに娘の火竜公女を与えるとして婚約させた。 再び冬越しの村(3年目年始~) 3年目年始の第二次極光島攻略作戦以降、再び冬越しの村の村はずれの館で暮らした。またもや猪狩りなどをして館の面々に食材を提供していたらしい。3年目晩夏に貴族子弟、軍人子弟への剣術の訓練をしている描写がある。商人子弟は出てこないため、脱落したものと思われる。 3年目晩夏、開門都市の連絡議会で魔王の名代黒騎士として参加。その後の縁日では東の砦将、火竜公女らとともに楽しむ。 初出 1-1 1スレ タイトル 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」1 名言 2-1 2スレ208レス 2009/09/06(日) 19 33 09.61 勇者「俺は魔王の持ち物だけど、 負けたから持ち物にされたわけじゃない。 勝ったら全てを得る、勝ったら正義。何をしてもいい。 負けたから持ち物になる。負けたら何をされても仕方ない。 そういうのじゃない。 そういうのじゃない事実が俺なんだ。 俺は……『丘の向こうへ続く道』だ」 2-3 2スレ562レス 2009/09/07(月) 12 31 15.17 勇者「みんな生きてるんだ。がんばってるんだぞ。 毎日毎日少ない手持ちと、なけなしの希望でさ。 そんなのいっしょくたに壊すなんて、出来るわけ無い」 仮の姿・別名 白の剣士 人界での偽名。紅の学士の護衛という設定。 黒騎士 魔界での偽名。魔王の守護剣士という設定。 関係する人物 魔王 相互所有契約 メイド長 嫁?の部下 メイド姉 冬越しの村の村はずれの館の同居人 メイド妹 冬越しの村の村はずれの館の同居人 貴族子弟 冬越しの村の村はずれの館の同居人、剣術の弟子 軍人子弟 冬越しの村の村はずれの館の同居人、剣術の弟子 商人子弟 冬越しの村の村はずれの館の同居人、剣術の弟子 女騎士 勇者パーティの仲間 女魔法使い 勇者パーティの仲間 執事(弓兵) 勇者パーティの仲間 青年商人 かつて騙された 火竜公女 一方的に婚約関係に 東の砦将 魔界の友人 夢魔鶫 黒騎士時の使い魔 ○物語開始以前に討伐 地竜王 妖将姫 ○敵対者 南氷将軍 魔狼元帥 魔狼将軍 黒狼鬼 黒狼衛兵 聖鍵遠征軍兵士 遠征軍士官 ○面識のある人物 修道士 光の精霊 痩せた村人 羽妖精 妖精女王 火竜大公 酒場の主人 魔族娘 傷病魔族 人間商人 魔族商人 主人公 人物 人間 冬の国の人物 冬越しの村の人物 勇者パーティー 男性 聖王国出身の人物
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概要 マドリアル攻略とは、ザールック3325年10月、アトレティア国とマドリアル国の間で行われた戦いである。 後世の物語では、当時アトレティア国の客将であったセルカティーナが、自身の実力を売り込む為に行った攻略戦として描かれている。 後年発生するマドリアルの戦いと区別するため、マドリアル攻略と呼ばれることが多い。 戦闘に至るまでの背景 アーズ国との戦いで父を失い、没落した状態となったセルカティーナ。彼女に残されたのは、いまだ忠誠を誓うアスハ、ファリミス、そして幼馴染のキリィの3人だけとなっていた。この頃彼女は、アトレティア国の実質上の支配者となっているジルダーの元へ流れ着き、客将として日々を過ごしていた。しかし、自身の実力を見せ、立場を強化するため、マドリアル国攻略戦への参加を嘆願する。 この進言には誰もが耳を疑った、セルカティーナは、私財を投げ打っても、せいぜい数百の傭兵を数日雇える程度の兵力であり、マドリアル国は、アトレティア国本土のすぐ近くにありながらも、自然の要害に守られて、山脈に守られている為、艦隊も近づけず、これまで何度もアトレティア国に攻撃されながらついに陥落しなかった難攻不落の土地である。 「参戦のご許可を頂いただけではなく、私の我侭を聞いて頂き、本当にありがとうございます……このセルカティーナ、言霊を契約として成し遂げてみせましょう」 セルカティーナはそういい残して出陣した。ジルダーは、彼女が何かしらの勝算があると考え、ガザデルー、シゴラ、バリナ、シャラ達主力部隊とは別行動をとらせ、自由な行軍の許可を与えた。 ただし、マドリアル国は国土の大半が凍土地帯であり、占領しても利点が無い国であったこともあり、アトレティア国が本気で過去マドリアル国に何度も兵を派遣していたのかは疑問が残っている。 この戦いがあったこと、セルカティーナがこの戦い後、相当の褒美を貰っていることから活躍していることは事実だが、「何度攻めても攻略できなかった難攻不落のマドリアル国を、セルカティーナの働きで落とした」というのは後世の誇張であり、「今まで相手にしていなかったマドリアル国攻略を本気で実行したとき、ちょうどセルカティーナがアトレティア国に来ていた」と考えるのが妥当という説もある。 両軍の戦力 攻撃側 守備側 アトレティア国軍 軍勢 マドリアル国軍 総兵力32340 兵力 総兵力28000 ガザデルー 総指揮 軍師 主要参戦者 ガザデルー シゴラ バリナ シャラ セルカティーナ アスハ ファリミス キリィ 戦闘経緯 マドリアル国は、東は断崖絶壁に囲まれ、西は入り組んだ山脈が防壁となっている。最西部の広大な平原は既にアトレティア国軍が占拠しているものの、ここは荒れた平地で作物が取れるわけでもなく、元々無人の平原であった。 過去に何度かアトレティア国軍が首都を目指したが、この平地に軍勢を集結させ、西側から攻め込み、天然の要塞の前に敗退を繰り返していた。 セルカティーナは夜中のうちに船で東の断崖絶壁にたどり着くと、僅か数名でこの絶壁を上り始めた。ここはとても部隊が攻め込める場所ではなく、断崖絶壁に設置された砦は、見張りも手薄でその任務も怠慢気味だった。そこに加えてたった数人だった事もあり、セルカティーナは発見されずにこの絶壁を上りきり、闇夜にまぎれて見張りを討ち、兵士の一人に使者の姿をさせ、「アトレティア国軍は新造艦隊の開発に成功、これまでは艦隊の浮力で決して越えられる事のなかったこの要地に、一斉攻撃を仕掛けに来る」という偽情報を砦内に流させた。 防衛は西に集中していた為、東は手薄だったこともあり、この情報を聞いた駐屯部隊は、既に東の崖に大軍が殺到しているという情報に大混乱を起こす。 そこに崖を上りきったセルカティーナの兵士達が攻め込む、既に相手は大兵力と勘違いしていた駐屯部隊は、相手が僅か300あまりの兵力とは思いもせず、数で勝っていながら完全に混乱し、ほとんどが戦わずして撤退していく。 数日後、本隊9000を率いてマドリアル国軍が東の砦を奪還するべく出陣するが、セルカティーナは既にこの地を放棄、砦は大軍がいる偽装だけを施された無人砦となっていた。 その間にセルカティーナの連絡を受けたガザデルー本隊が西から攻め込み、兵力を分断していたマドリアル国軍は、さすがの防壁でも防ぎきれず、ついに陥落する。 ガザデルーのマドリアル攻略戦が準備されるより前にセルカティーナが絶妙のタイミングで独自の行動を行った事がこの勝利を招いた。 もし、セルカティーナの作戦があと1日遅れていれば、ガザデルー本隊の接近を知ったマドリアル国は、東にそこまでの戦力を割けず、また偵察も徹底した為、東の砦が無人だったことを察知したかもしれない。その場合、西の兵力は依然として篭城によりガザデルー軍を撃退する規模であっただろう。 結果として、セルカティーナは、僅か300の兵で、この勝利を呼び込むこととなった。 戦いの結末 セルカティーナはこの戦いで名を馳せ、ジルダーから褒美として完成したばかりの新造ダルスバード艦隊を授かった。また、少数精鋭だからこそ、正規軍としてではなく私兵団として自由に動くことの許可をもらい、セルカティーナ私兵軍が完成されることとなる。
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<前13-1へ|次13-3へ> 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」13-2 171 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/10(火) 06 10 11.26 ID 4RteqQsP ――開門都市近郊、南部連合軍、中枢 伝令「遠征軍内部で慌ただしい動き有りッ。内部で再編成の模様っ」 冬寂王「気が付かれたようだな」 鉄腕王「まぁ、そうだろう」 軍人子弟「予想済みでござるよ。装甲馬車を急がせるでござる」 鉄国少尉「了解っ」 将官「重いのが難点ですね、あれ」 羽妖精侍女「妖精ニハ動カセマセンデス」 冬寂王「なぁに。赤馬の国の駿馬がいる」 鉄腕王「奴らはどう出るか」 軍人子弟「おそらく会戦を望むでござろう」 鉄国少尉「ですね」 将官「ふむ」 軍人子弟「遠征軍の最大の武器は数。 平原で横一線になり激突するような戦になれば圧倒的有利。 こちらに小細工をさせる隙を与えないのが基本でござる。 都市軍と合流されたとしても、籠城されるよりはそちらを 選ぶでござろうね」 将官「引き受けるのですか?」 軍人子弟「……」 羽妖精侍女「ござるハ難シイ顔デス」 軍人子弟「昨日もはっきりしたでござる。 マスケットはたしかに強力な武器でござるが、強力すぎる。 多くの死者を出すでござる。 こちらが死にたくなければ、相手を多く殺すしかない。 歯止めの利かない武器でござる……。 拙者は軍人ゆえに死を厭うことはないでござる。 我が南部連合軍は全て軍人。 王命を果たすため、義を貫くため戦う覚悟はあるでござるが 相手は、銃を持った農奴に過ぎぬと考えると 気が進まぬ戦ではござるな」 172 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/10(火) 06 11 20.16 ID 4RteqQsP 鉄国少尉「しかし、手加減をして勝てる相手ではありません。 そもそも全力を尽くしても勝てるか否か」 将官「そうですね……」 冬寂王「今を生きる我らは未来に対しての責務を負っているのだ。 ここで手をゆるめることは明日に対する裏切りだろう」 鉄腕王「……うむ」 軍人子弟「そうでござるね」 将官「勝算はどれほどあるのです?」 軍人子弟「開門都市からのこの親書を信じれば、まず」 将官「まず?」 軍人子弟「五割でござろうね」 鉄国少尉「策を持ってしても、ですか」 軍人子弟「時にはそういう戦もあるでござるよ。 そもそも策とは不利だから講じているのでござる。 昨日の戦で判り申したが、 遠征軍はどうやら全軍では行動がとれぬ様子。 と、いうよりも、王弟将軍の指揮権が半減しているでござる」 鉄国少尉「そのようですね。昨日はあそこまで攻めて叩いても 本陣からは援軍の動きも、そもそも報告の行き来もなかったとの 密偵から知らせが入っています」 将官「ふむ。……何らかの齟齬でもあるのですかね」 冬寂王「遠征軍もまた我らと同じように多数の国家群からなる 寄せ集めの軍隊だ。 馴れぬ異境の地で、意見が割れると云うこともあるだろう」 173 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/10(火) 06 12 29.79 ID 4RteqQsP 軍人子弟「そうでござろうね。 我らと違って、参加諸侯は恩賞の土地目当てが殆ど。 そこらあたりが原因かと思うでござる。 王弟元帥とやらは確かに軍事的才能は秀でているでござろうが、 致命的な弱点があるでござる」 将官「弱点? そのような物があるのですか?」 冬寂王「はははは。“それ”を弱点というのは いささか可哀想な気がせんでもないな」 鉄腕王「なんだそれは?」 軍人子弟「それは“一人しかいない”と云うことでござるよ」 鉄国少尉「確かに」 将官「それは当たり前ですが、それが弱点になるんですか?」 軍人子弟「2つの前線で指揮は執れないでござるよ。 夜明けを切っ掛けに開門都市とこちらで連携した戦術で 遠征軍を引きずり回すでござる。 遠征軍に亀裂が入っているのであれば、 その機動で必ずや無理が露呈するでござる」 羽妖精侍女「都市ハ助カリマスカ?」 鉄腕王「大船に乗ったつもりでいてくれや」 冬寂王「軍人子弟殿は、その親書を深く信頼しているのだな」 軍人子弟「蔓穂ヶ原の戦いにおいて我らを助けるために 駆けつけてくれた魔族の二人の将軍の一人が、 開門都市で指揮を執っているでござる。 砦将殿とはあの戦役の折、酒を酌み交わしたでござる。 あの御仁であれば、必ずや役目を全うされるでござろう。 それに……」 冬寂王「それに?」 軍人子弟「この親書の封蝋の紋章には見覚えがあるでござるよ」 鉄腕王「封蝋」 軍人子弟「懐かしき学舎の、でござる。 二人の師匠が揃って見ているのでござる。 拙者が恥ずかしい真似をすることは出来ないでござるよ」 175 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/10(火) 06 18 30.94 ID 4RteqQsP ――開門都市、南大門、大通り付近 義勇軍弓兵「明るくなってきた……」 人間作業員「夜明けだ」 東の砦将「さぁって、今日が運命の一日か」 青年商人「そうなりますね」 東の砦将「すげぇくそ度胸だな」 青年商人「いやいや。そんなことはありません。 しかし、顔色を変えると足元を見られますからね。 それに最初はそちらの手番です」 東の砦将「“とりあえず火をつけろ”とはね」 青年商人「やはり相当に無茶ですかね」 東の砦将「普通の将軍なら引き受けねぇだろうな」 青年商人「でしょうね」 東の砦将「でも、こちらも一応族長って事になってるし このまま縮こまって守ってれば勝てるかって云う話でもあるしな。 また、勝って良い相手かと問われれば、そりゃ悩むさ。 別に俺が人間だからって訳じゃないぞ。 ただ、曲がりなりにも開門都市を預かっていたからな。 やはり夢は見ちまうさ」 青年商人「夢、ですか」 東の砦将「喧嘩はしても、一緒にやってくことも 出来るんじゃねぇかってな」 青年商人「そんな事は最初から自明ですよ」 東の砦将「そうなのかい?」 青年商人「ええ、最初に出会った時から判りきっていました」 東の砦将「あいつらにも判ってくれりゃぁいいけれどな。 さぁて、そろそろはじめるぜ?」 青年商人「よろしくお願いします」 東の砦将「よーし、火をつけろ! 金物をならせっ!! 門の付近で火事が起きて騒ぎを起こせば、 抜け駆けされたと誤解をした遠征軍の先方部隊は 飛び起きてしゃにむに突撃してくるぞ! 火矢を射込め! 灯りを目当てに射撃で数を減らせ! 乱戦を演出するんだッ!」 青年商人「略奪貴族部隊の眼を、南門に引きつけるのです! 斥候を集中させて、北門の包囲を解かせる。 この一戦で状況を打破しますよっ」 176 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/10(火) 06 22 20.80 ID 4RteqQsP ――開門都市、南通り正門付近、遠征軍の天幕 ダダダッ! ガササッ! 見張り兵「領主様っ!」 貴族領主「見えておるわ、このうつけめが! 皆をたたき起こせ!」 見張り兵「は、はいっ!」 ごおおおお! 私兵隊長「あの炎はっ!?」高慢な騎士「さては、川蝉の領地か、霧の国の抜け駆けか!」 貴族領主「このままでは一番槍を奪われるっ。 農奴達を正門に突撃させろっ。いや、我が領土の騎士を投入だ! 急げ! 農奴などは信用がならぬっ」 私兵隊長「判りました! 整列っ! 整列っ!」 高慢な騎士「腕が鳴りますな、領主殿」 貴族領主「ふっ。強力無双の騎士どもにかかれば魔族どもばらなど」 高慢な騎士「はーっはっはっは! 我に任せれば 全て平らげてご覧に入れようっ!」 バサッ! 見張り兵「炎上は継続中! 霧の国、塩の国の兵団や、傭兵部隊が 動き始めました! 正門付近では戦闘が始まっております、 すごい音です!!」 貴族領主「こうしてはいられぬっ」 高慢な騎士「陽も登りつつある、暗闇は払われたっ! 今日こそ小癪な魔族どもをこの世界から抹殺してご覧に入れる!」 観測兵「開戦っ! 夜明けを待たずして、激突が起きていますっ」 伝令兵「早速部隊が正門打破を成功させましたっ!!」 177 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/10(火) 06 25 03.93 ID 4RteqQsP ――開門都市近郊、南部連合軍、中枢 将官「開門都市、南門付近に動き有り! 火の手ですっ」 軍人子弟「いよいよでござるな」 鉄国少尉「はっ!」 冬寂王「決戦になるのか?」 軍人子弟「出来れば仕留めたいでござるね」 将官「このような時に、女騎士将軍がいてくだされば……」 冬寂王「それは言うな。彼女には彼女の仕事があるのだろう」 鉄腕王「そうなのか?」 軍人子弟「あるでござろうね」 鉄腕王「この一大事になんの仕事が」 軍人子弟「勇者一行の仕事でござるよ」 鉄国少尉「そうですね。我らのことは我らでやらないと」 将官 こくり 冬寂王「そうだな」 斥候「遠征軍後陣、突出してきますっ!」 鉄腕王「ふっ」 軍人子弟「先にこちらを叩くつもりでござるか。いや……」 鉄国少尉「ええ……。突進してくるのは約6000。 そのほかの部隊は、一丸になって力を蓄えています」 鉄腕王「決死隊か」 178 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/10(火) 06 33 16.41 ID 4RteqQsP 軍人子弟「……」 鉄国少尉「お気持ちは判りますが、避けられませんよ」 軍人子弟「無用の情けは武人の恥でもあり 傲慢でもあるでござろうね」 鉄国少尉「そうです」 冬寂王「血が必要なのだ。この瞬間を乗り越えるためには」 鉄腕王「我らの血で払いたくなければ敵の血であがなうしかない」 軍人子弟「騎馬隊っ!!」 騎馬隊「はっ!!」 軍人子弟「縦列突撃準備っ! 敵の突出部隊は軽装歩兵中心。 マスケットは含まれていても少数でござる! これを機動兵力にて一撃するでござる。 ただし、敵の狙いは、この兵力を持って 自らのマスケット射程圏内に我らをおびき出すことっ。 くれぐれも突出を控えよ。角笛の二点呼にて退却っ!」 騎馬隊隊長「復唱します! 縦列突撃後、角笛の二点呼にて退却」 軍人子弟「よしっ! 指揮は鉄国少尉っ」 鉄国少尉「お任せあれっ!」 軍人子弟「まだ序盤でござる。太刀の一合わせ目に過ぎぬでござる。 いまは、敵の首よりも混乱が欲しい。 逃げる敵があれば、深追い無用。ただし、意気はくじくべし!」 鉄国少尉「かしこまりましたっ!」 将官「我ら歩兵部隊は?」 179 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/10(火) 06 34 58.77 ID 4RteqQsP 軍人子弟「このまま前進。緩やかに回り込みながら開門都市に接近。 遠征軍の本陣に圧力を加え続けるでござる」 鉄国少尉 こくり 軍人子弟「遠征軍の貴族達や王族達、それに教会勢力は、 安心しているのでござる。 ――たとえ多少の軋轢はあってもいざとなれば王弟の軍が 守ってくれる、と。 それゆえ、その安心ゆえに、絶対的な高所から狩るかのように 人殺し、魔族殺しを行なっていることが出来るのでござる。 我らは身を切られるような痛みを持って この戦場に立っているでござるが、きゃつらはその痛みを 感じることもないままに、ぬくぬくと略奪をしているだけ。 これでは交渉など出来ようはずもないのでござる。 安全? 守ってくれる? 一方的な攻撃? そのような保証はこの戦場にはどこにもないということを 我らが教えてやる必要があるでござるっ」 冬寂王「気が付くかな、遠征軍は」 軍人子弟「気が付いたにしろ手遅れでござるよ。 数が多いという武器が、今度は奴らの首を絞めるでござる。 あの全軍を統率することは、たとえ王弟将軍であろうと 今からは不可能でござる」 将官「了解です。防御陣形のまま迂回侵攻っ」 軍人子弟「直属ライフル部隊は、このまま予定どおりの地点を 移動しつつ、狙撃により遠征軍の指揮系統を破壊するでござる! 遠征軍の大半は、戦闘には不慣れな素人。 士気も決して高くはない。 指示がなければ判断できない部隊でござる。 貴族の鎧や戦馬を集中的に狙撃っ! 指揮系統を分断っ!」 ゴオォォーン!! 鉄国少尉「始まりましたな。いってきます! 護民卿っ!」 軍人子弟「我らの明日のためにっ!」 182 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/10(火) 07 17 26.21 ID 4RteqQsP ――地下城塞基底部、地底湖 明星雲雀「ピィピィピィ」 女魔法使い「……ここ」 魔王「こんなところがあったとは……」 勇者「ここは、開門都市の」 女魔法使い「そう。岩盤空洞」 メイド長「まおーさまっ!」ひしっ 魔王「メイド長ではないかっ」 勇者「よっ」 メイド長「心配しましたよ」 魔王「魔法使いの手伝いはどうなった?」 メイド長「もちろん完璧です」 勇者「手伝い?」 女魔法使い「借りた」こくり 魔王「殆ど脅迫のようにメイド長を連れて行ったのだ」 ガシャ 女騎士「わたしもいる」 勇者「女騎士っ!」 女騎士「勇者、ぼろぼろだな」 明星雲雀「みんなぼろぼろですよぅ。ぴぃぴぃ」 女魔法使い「説明をする」 メイド長「そうですね」 184 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/10(火) 07 18 31.70 ID 4RteqQsP 魔王「説明。生け贄の祭壇……か」 女魔法使い「そう。ここが生け贄の祭壇。 正確には開門都市全域が、そう。 それは、勇者か魔王の死を感知して起動する力場形成装置」 メイド長「ずいぶん古く、精巧なものです。 この魔法的な装置の修理と手入れは非常に微細なレベルでの 掃除が必要でして、通常の方法では不可能でした」 魔王「それでメイド長が必要だったのか」 メイド長「ええ、メイドゴーストであれば透過しつつ 掃除できますからね」 勇者「いくら修理したからって、 魔王を生け贄にするつもりなんて俺にはないからなっ」 明星雲雀「ピィピィピィ」 女魔法使い「問題ない」 勇者「だいたい何でかあいつら何かを犠牲にすれば 何か得られるとか本気で信じ込んでるから始末に負えない。 それは要するに何かを犠牲にすれば、貰えて当然って云う さもしい乞食根性だっていい加減気が付けって…… えーっと。……問題ないのか?」 女魔法使い「ない」 明星雲雀「……ピィ」 女魔法使い「この装置は、魔王や勇者という存在が消滅する時に 発生する巨大な関係性のエネルギーと魔力を変換して 起動するもの。残った片割れを精霊の住む場所へと案内する」 勇者「精霊の住む場所って……異次元とか?」 女魔法使い「精霊にそんな概念はない。そんなに都合は良くない。 精霊がいるのは、あの……碧の、太陽」 メイド長 こくり 魔王「あの太陽にっ!?」 185 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/10(火) 07 20 24.89 ID 4RteqQsP 勇者「魔界のか!? なんだってそんな所にいるんだよっ」 女魔法使い「大破砕の後の混乱、茫然自失、あるいは昏睡。 それから覚めた精霊の眼に移ったのは荒廃した世界。 これから荒廃してゆかざるを得ない世界。 人間と魔族……つまり、大地の精霊の血を引く力弱き民と それ以外の精霊の血を引く猛々しい民の間には すでに憎しみの眼が撒かれていた。 それも、炎の精霊族たる彼女と、 大地の精霊と人間の間に生まれた彼女の恋した青年。 ――最初の勇者が惹かれあったせい。 二人の恋がおごり高ぶった精霊の選民思想に火をつけて この世界を引き裂きかねない荒廃をもたらした。 この世界は広いけれど、それでも憎しみ合う2つの民を 住まわせるほどの広さはなかった。 だから、彼女は魔族――精霊の血を引く民を この大地の底へと閉じ込めた。 それは人間の自由さをねたみ、恐れ、縛り付けようとした 自らの一族への永劫の罰。幽閉の煉獄。 でも、罪深き自らの民以上に彼女は自分自身を責めた。 救いきれなかった自分を。 選べなかった自分を。 そして、彼女はこの真っ暗な地底世界の、 せめてもの灯りになることを望んだ。 彼女は炎の精霊としてその身を焦がし、 “光の精霊になった”」 メイド長「……」 女魔法使い「魔界には、この空洞には灯りがなかったから。 炎の娘が魔族と呼ばれる者たちに“世界”を与えるためには それしか方法がなかった。 彼女は今でもその身を焦がしながら、焼ける身体に心を 縛り付けて、何人もの魔王を、そして勇者を待ち続けている」 魔王「では……」 勇者「まさか……」 女魔法使い「そう。あの碧の太陽が、彼女の骸。 ――光の聖骸。光の精霊の、罪に満ちた、亡骸」 魔王「いったいどれだけの時を」 女魔法使い「その時間は、この世界において意味をなさない。 時間を刻むべき世界が切り替わるほどの時がたった」 186 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/10(火) 07 23 07.12 ID 4RteqQsP 勇者「……そか」 女騎士「……」 女魔法使い「……時間を掛けて研究した。私の魔力ならば 魔王が死んだ時に匹敵する魔力を作り出して、 維持することが出来る」 魔王「まさかっ!? そうなのかっ?」 勇者「魔法使いが出来るって云うのなら、出来るんだろうな」 明星雲雀「……ぴぃ」 女魔法使い「任せて」 女騎士「……ああ、任せても平気だ」 ブゥゥウン メイド長「魔力回路の整備も完璧です」 女魔法使い「私が回路を起動させて、『天塔』を作る。 力場で作られた高さ1500里の塔。その先に精霊はいる。 起動が成功したら、すぐに魔王と勇者、女騎士は 塔へと突入する。塔の中は完全に無人のはず。 作りたてだから。後は最上階で精霊を説得する」 魔王「女騎士も?」 女騎士「ひどいな。魔王は。 まさか勇者と二人だけで行くつもりだったのか?」 魔王「いや、そういうわけではないが」 勇者「そういえば、いつの間にこっちに来てたんだ。女騎士は。 よくここまでたどり着けたな」 女騎士「……魔法使いの案内で」 明星雲雀「ご主人様はねっ! ほんとはっ!」 女魔法使い「……“捕縛式”」 明星雲雀「ピギャン!」 187 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/10(火) 07 24 21.92 ID 4RteqQsP メイド長「まおー様……」 魔王「世話を掛けるな」 メイド長「いえ。これもメイドの役目ですから。 ですけれど、帰ってきてくださいね」 魔王「それは」 勇者「もちろんだぞ。絶対帰すから」 魔王「勇者、今回ばかりはそうとばかりも」 メイド長「今回はお供できません。申し訳ありません。勇者様」 勇者「おうよ」 メイド長「期待して良いですね?」 勇者「もち」 メイド長「それ、虚勢ですよね?」 勇者「よく判ったなっ」 メイド長「いえ。虚勢も張れないような人間だったら 始末していたところです」 魔王「メイド長っ!」 勇者「いや、良いって良いって。それにさ。 大変なのは俺らばっかりじゃないしさ。 そもそも俺たちなんて精霊に面会して 説得するだけの楽な任務だぜ? 考えてみれば、下に居残って都市を守る方が 絶対にキツイって。戦争なんだぞ?」 メイド長「そんな事はないかと思いますが」 魔王「いや、勇者の云うことももっともだ。 都市のみんなにも、よろしく伝えてくれ」 勇者「俺からも頼む。……メイド姉にも、会えたらな」 メイド長「へ?」 188 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/11/10(火) 07 26 54.71 ID 4RteqQsP 魔王「メイド姉が?」 勇者「来てるよ」 メイド長「来てるって……」 勇者「近くで、軍を率いているよ」 メイド長「何をやっているんですかっ。あの娘はっ!?」 勇者「勇者」 メイド長「え? ええ?」 魔王「勇者?」 勇者「ああ。……勇者を名乗るんだってさ。くくっ」 魔王「――。あははははっ」 勇者「最高だろ?」 魔王「まったくだ!」 メイド長「笑い事ですかっ」 魔王「いやさ。覚悟を決めた人間のなんと眩しいことか」 勇者「あいつは本物だよ。俺より勇者かも知れないな」 メイド長「まったく。あの娘は、メイドの道を諦めて正解です。 おとなしい内省的な性格なのに、 表に出る行動だけは断固意地っ張りでとんでもないんですから」 魔王「メイド長によく似てる」 勇者「そうな!」 189 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/11/10(火) 07 28 25.46 ID 4RteqQsP 女騎士「……」 女魔法使い「……」 勇者「まぁ。上の件は、任しておけって」 魔王「本来の役目だからな」 メイド長「緊張感を持ってください」 女騎士「すまない……」 女魔法使い「謝る必要なんて無い。 私は私の思うがままに誠を通しているし。 ――それで、十分」 女騎士「十分、なのか」 女魔法使い「中に入ったら、打ち合わせ通りに」 女騎士「判った」 明星雲雀「やっぱり無茶ですよぅ。もっと準備をして」 女魔法使い「準備の時間はない。 今ならば、あの怪物より先に『天塔』へ入れる。 でも、先行されたならば追いつくことは出来ない」 明星雲雀「だからって……」 女魔法使い「忘れてはいけない。魔王は戦闘では無力。 勇者の戦闘能力は、無力化の祈願によって十分の一。 もう、あの怪物を止める手段はない。 誰も気がついてないけれど、もう詰んでいる。 魔族軍も南部連合軍も、もはや遠征軍さえも ――すでに壊滅しているに等しい」 191 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/10(火) 07 31 10.05 ID 4RteqQsP 女騎士「そうだな」 女魔法使い「……私たちは何?」 女騎士「勇者の仲間、だ」 女魔法使い こくり 女騎士「だけど」 女魔法使い「……あの化物が戦場で暴れ始めたら 膨大な数の犠牲者が出る。わたしはそれでも良い。 ううん……その方が良い。 けれど、それでは勇者が納得しない」 女騎士「そうだな……」 明星雲雀「馬鹿ですよぅ。本当に」 女魔法使い「……それで、いい。それが、いい」 女騎士「……」 女魔法使い「魔王はそろそろ気がついている。 収斂力が高まるという意味について。 ――それは魔王というシステムの根幹だから。 略奪、戦乱、疲弊、飢餓、崩壊。 それが魔王という機構の存在意義。 『世界を後退させる収斂力の顕現』」 女騎士「魔法使いの話はいつも難しいよ」 192 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/10(火) 07 32 24.26 ID 4RteqQsP 女魔法使い「理解しないと負ける」 女騎士「判った」 明星雲雀「判ったのかねぇ。ピィピィ」 女騎士「勇者と魔王は、精霊を目指す決定力。 であると共に、怪物を戦場から引きはがす、囮」 女魔法使い「……正確には囮じゃない。 『天塔』が起動する。 それは、一見、勇者か魔王の死を示す。 怪物はそれを見逃さない。全てを手に入れるために 『天塔』へと向かい、結果的にそれは先行する 女騎士達を追いかけることになる」 女騎士「話は簡単だ。それに望む所でもある。 護衛だなんて騎士の誉れだ」 女魔法使い「……」 女騎士「ほんとだぞ?」 女魔法使い「足止め、捨て駒。許されない」 女騎士「魔法使いがそれを云うのか」 女魔法使い「わたしは特別。わたしは世界で一番想ってる」 女騎士「わたしだって特別だ。魔王だってな。 思い上がってちゃだめだ。世界で一番、なんて。 そんなもの、世界で一番ありふれているんだから」 232 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/12(木) 21 09 16.59 ID uEzyLrsP ――開門都市、南門周辺、市街戦 獣人軍人「下がれ! 押し寄せてくるぞ!!」 土木師弟「10番から20番まで、扉閉鎖っ! タールを流せ!」 巨人作業員「オオオっ!」 義勇軍弓兵「討て! 討てっ!!」 ひゅんひゅんひゅん!! ひゅんひゅんひゅん!! 人間作業員「土嚢だ。石も持ってきた!」 蒼魔族作業員「そこにおいてくれ。俺たちが積み上げる」 人間作業員「そこは矢が飛んでくるぞっ!」 蒼魔族作業員「だから俺たちがやるんだっ」 東の砦長「おい、おい。落ち着けぇ! まだ始まったばっかりだ。それに相手は貴族配下の 欲の皮の突っ張った騎士どもに腰の引けた従者どもだぞ。 こんなものはまだまだ手始めだ。気負うな!」 獣人軍人「退却する城壁、防壁、路地を確認っ」 土木師弟「……良く引き寄せてくれ」 巨人作業員「……家を……略奪しながら」 義勇軍弓兵「ふざけるな! 遠征軍どもめっ。 人間はお前達のような恥知らずばかりじゃないっ」 ゴォォン!! 人間作業員「!! カノーネ!? お構いなしなのかっ」 235 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/12(木) 21 12 55.49 ID uEzyLrsP 東の砦長「よぉく聞け! 衛門の一族よ! 魔族の強者よ! 南区全域はこれより市街戦の戦場とするっ。 すでに住民の避難も終わり、魔王の許可も出ている。 本陣は無名神殿に奥だが、いずれは無明神殿まで譲り渡す。 いや、無名神殿の方まで貴族軍を招き寄せて捕獲するぞ! いいか、街はここで大きな被害を受けるだろう! だが、街は街だ。 人じゃない。 戦が終われば再建できる。 眼前の一戦にこそ、家族、同胞、氏族、そして魔界の 興亡がかかっていると心得よっ! 憎しみで戦うなっ。恐怖も怒りも視界を濁らせて自分の 身を危うくするぞ! 無理はするなっ! この区域は俺たちが暮らしてきた街だっ。 一から復興して、一つ一つ煉瓦を積み上げてきた都市だっ。 この都市は俺たちの味方で、決して裏切ったりはしない。 欲に駆られたヤツらは略奪や放火をしながら進んでくる。 少しずつ、ヤツらを小さな部隊にほぐして、取り囲め! 無理なら殺して問題はないが、もし可能なら生け捕りにしろ。 戦闘力を奪うには、両手をへし折れば足りるっ。 我らの街に勇んで入ってきたヤツらは、地上の王族や貴族だ。 戦後身代金をたんまり払わせてやるぞっ!」 「「「おおっ!」」」 東の砦長「土木師弟さんよぉ、人足を指揮して、 防壁の指揮を頼む。相手の上に矢を降らせて いらいらさせてくれ。ヤツらの経路誘導は全て任せたっ。 獣人軍人っ。あんたは後詰めだっ。 だからといって暇じゃないぞ。けが人の手当やさらに 後ろへと運ぶ準備、それから捕虜の管理、全てやってもらう。 後退軍の準備も進めてくれっ。 俺は大通りに出て、ヤツらの主力を一回叩く。 さっと下がるからな! 街の中央部へは行かせるな! あくまで無名神殿方面へと侵攻させ、被害を制御しろっ!」 ゴォォン! 東の砦長「この街は魔王そのものだっ。 俺たちは魔王に恩義があるっ。 そしてその魔王を守るために散っていった友との約定もある。 この地を守ることは、俺たちがこの地の正統な住人だと 名乗る上で欠くことの出来ぬ条件だ。 ――故郷だからこそ守る、と人は言う。 だがしかし、俺は新興の木っ端族長として言わせてもらうぜ。 “守るために力を尽くしてこそ故郷と呼べるのだ”となっ。 さぁ、だれ恥じることのない故郷を得るために、 この都市を本当の意味で我らの故郷とするために 俺たち力の最善をつくせっ!! 自分自身の未来の為にっ!」 236 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/12(木) 21 14 16.34 ID uEzyLrsP ――開門都市南側、南部連合軍前線 ズギュゥウウン! ズギュゥゥン! 軍人子弟「600歩後退っ!」 鉄国少尉「600歩後退っ! 急げっ!」 将官「左翼騎馬部隊、準備完了っ」 軍人子弟「接近、騎射終了後即座に反転して離脱っ。 行くでござるよっ!」 将官「了解っ!」 冬寂王「どうだ」 軍人子弟「小刻みに出入りを繰り返しながら 敵軍を挑発中でござる。 最初の斉射の後は、遠征軍の前線の指揮官も 軍勢の内側に身を隠したようで なかなか隙を見せないでござるね」 「おぉぉぉぉ!!」 「光のために!」 「精霊は求めたもう!」 ギィン、キィン!! 鉄国少尉「騎射完了ッ!」 軍人子弟「300歩前進っ! 射撃準備っ」 冬寂王(細かいな。これほど緻密な運用をするのか) 軍人子弟「どうしたでござろう? 冬寂王」 冬寂王「いや、感心していただけさ」 軍人子弟「?」 237 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/12(木) 21 17 07.58 ID uEzyLrsP 鉄国少尉「確かに驚異的な粘りですね」 冬寂王「む?」 軍人子弟「さすが王弟元帥という話でござる。 歴史に残る采配でござるよ。 これだけ指揮系統を炙って、少なからぬ混乱を 起こしているにもかかわらず、前線が破綻しないでござる。 それどころか、けが人を抗争して、素早い再構築を繰り返し 前線密度が低下しないでござるよ。 こちらの突撃はマスケットで押さえながらも、 向こうのもくろみも進行させているでござる」 冬寂王「もくろみ、とは?」 軍人子弟「遠征軍は、開門都市南門で戦場を一つ、 そしてここで我ら南部連合との間に戦場を一つ 抱えているのでござる。 二つの戦場の間には貴族や王族、教会の天幕やら 糧食を集積した大規模な街にも匹敵する陣地を 築いている……。 この三つは、互いに距離もあり連携することは困難でござる。 王弟元帥1人で目が届くのは我らとの前線くらいのもの。 そしてその前線戦力では我らと互角。 王弟元帥はこちらの誘いに乗らずに徐々に軍を斜行させ 本陣、および南門前線方向へと戦場をずらしているでござる。 おそらく前線と本陣の距離を圧縮して、数的有利を得る 戦術でござろうね」 鉄国少尉「ま、こちらも織り込み済みですがね」 冬寂王「そうみえるな」 軍人子弟「しかし、それをここまで被害を押さえて 行なうとは非凡でござる。良くする所ではござらぬ。 敵でさえなければ教えを請いたいほどでござる」 238 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/12(木) 21 19 29.00 ID uEzyLrsP 冬寂王「崩すのはやはり難しいか?」 軍人子弟「膠着はするでござるね。 王弟元帥はこのまま戦場を圧縮し、 おそらく本陣へも我らの銃声が響くような距離設定に することにより危機感を煽り、一気に本陣の予備兵力を掌握。 その圧力にて、我ら南部連合を殲滅する計画でござろう」 鉄国少尉「……」 「大地のためにっ!」「我ら南部の旗の下にっ!」 ズギュゥウウン! ズギュゥゥン! 冬寂王「そのようだな」 軍人子弟「王弟元帥の器量がどれほどか」 冬寂王「そこは賭けにならざるをえんな」 鉄国少尉「は?」 冬寂王「器量が低ければ、軍の掌握を仕切れぬだろう」 そして器量が充分に高ければ戦わずとも済む。 ……高いことを期待したいが」 ゴォォン! ズゴォォン!! 冬寂王「カノーネか」 鉄国少尉「我ら主力軍、防壁まで後1里半に接近っ」 冬寂王「そろそろだな」 軍人子弟「本当に良いのでござるね?」 冬寂王「平和のためだ。惜しくはないさ」 軍人子弟「承ったでござる。輜重部隊、護衛部隊。準備を」 鉄国少尉「了解っ!」 239 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/12(木) 21 20 41.76 ID uEzyLrsP 冬寂王「前線の構築と傭兵は鉄の国および貴君に一任する。 我には南部連合のとりまとめとして、別の戦があるのだ。 出立前から描いていたとおり、やらせてもらおう」 鉄腕王「良かろう。会議でも合意されたことだ」 鉄国少尉「輜重部隊に簡易装甲の準備良しっ。 火竜大公よりの補給品、全て積み終わりましたっ」 羽妖精侍女「伝ワッテ欲シイデス」 冬寂王「力尽くでも判らせるほか、あるまいよ」 鉄腕王「こっちも準備よしっ!」 軍人子弟「狙撃部隊っ、突出してきた兵の鼻先を叩け。 なるべく深く突っ込み、荷物を置き去りにするぞ! 回収させるでござるっ!」 鉄国少尉「一番隊、二番隊、三番隊出発!! 護衛歩兵部隊、長槍部隊進発っ! 測距兵、マスケットの間合いを随時警告せよっ! 距離はない、ゆっくり進んでもかまわん!! 待避用の塹壕をこえて、慎重に行けっ!!」 冬寂王「では、我も出るか」 軍人子弟「それは――。前線はそれがしたちだけで 大丈夫でござる。冬寂王が身を危険にさらすことなど」 鉄腕王「はははは。わしもでるぞ。ここは王族の出番だろう」 軍人子弟「っ! では、拙者も出るでござるっ。 突撃準備っ! 鉄国兵団、構えっ!!」 鉄国少尉「了解っ!」 251 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/13(金) 03 31 34.06 ID rH.ZqWkP ――開門都市南側、遠征軍前線 ズギュゥウウン! ズギュゥゥン! 王弟元帥「きめの細かい傭兵だな」 参謀軍師「姫将軍とやらでしょうか」 王弟元帥「いいや、この感覚は違うだろう。 挑んでくるような覇気が感じられる上に、 しぶとく不屈の、折れぬ剣のような気配だ。 必殺の策を持っているという気迫ではないが 負けぬ戦いの意志を感じる。南部も、層が厚い」 参謀軍師「マスケットの射程距離外で細かく兵を出入りさせて わが軍の指揮系統を消耗させているようです」 王弟元帥「このような戦、歴史にはないものだ。 射程距離が長く、命中精度の高いマスケットか。 ――だが、数は少ないようだな」 バサリッ! 聖王国将官「元帥閣下っ! 陣備えを半里ほど後退させました。 本陣もあと少しで交戦領域です。本陣の予備兵力や 光の子供達の間では緊張状態が広がっていますっ」 参謀軍師「で、しょうな。彼ら徴発された農奴兵達は 王弟元帥に従って蒼魔族の領地まで遠征した経験もない。 魔界についてから大規模な合戦もなく、 攻城戦はカノーネが担当をしてきたわけでしょうから、 実戦の経験が足りないのでしょう」 252 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/13(金) 03 32 54.25 ID rH.ZqWkP 王弟元帥「そのプレッシャーが吉と出るか、凶と出るか。 しかし、ここまで前線と本陣を近づければ、 教会も貴族達も本気を出さざるをえなかろうさ。 伝令を出せ! 教会および本陣司令部に、援軍要請だっ。 一気に南部連合を打ち破るために兵力集中を命ぜよ! これは全軍総司令からの指令だっ!」 参謀軍師「はっ。すでに伝令は用意してあります」 聖王国将官「これで兵力がそろいますね」 王弟元帥「一時しのぎに過ぎんがな。 開門都市の入り口を固めるだけなら、貴族の私兵で充分だ。 本陣のマスケット銃兵1万を増援として運用。 このマスケット兵を右翼から南部連合軍にあてる。 その混乱に乗じて、我らが鍛えた精鋭マスケット部隊を」 ぐいっ 王弟元帥「一里ほど前進させるぞ。 それで南部連合の本陣までたたきつぶす」 伝令兵「王弟閣下! 貴族達が援軍を求めていますっ。 “開門都市南門付近の戦闘にて、魔族の抵抗激しく わが軍は窮地に立たされつつある、援護を乞う”と」 聖王国将官「恥知らずが」 王弟元帥「ふっ。戦局が見えていないのかっ。 いってやるがいい! “わが軍後方より南部連合が侵攻、 本陣との距離は一里を切り、全軍による総攻撃の段階にあり。 後方の指揮を変わっていただけるなら、聖王国中核軍全てを もって南門周辺地域の制圧に向かおう”となっ」 参謀軍師「ふふっ」 伝令兵「かっ、かしこまりましたっ!」 だっだっだっ 253 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/13(金) 03 34 13.00 ID rH.ZqWkP 王弟元帥「参謀っ」 参謀軍師「はっ」 王弟元帥「教会に向けて書状を。口述筆記だ」 参謀軍師「はい」 王弟元帥「“いまや、南部連合軍間近に迫り 開門都市との位置関係は我らを半包囲する状況に なりつつある。しかし一方、遠征軍には未だ豊富な 兵力があり、反撃は充分以上に可能である。 我が後陣は敵軍を制御しつつ戦場を設定した。 これより、全軍総司令として本陣予備兵力の銃兵1万を 増援として徴用。火力を持って南部連合を撃破する。 大主教におかれては、我らが聖鍵遠征軍に祝福を”とな」 参謀軍師「釘を刺しますか」 聖王国将官「これならば、大主教も 頷かねばならないでしょうね。南部連合を利用して 遠征軍の石を固める、素晴らしい策です」 王弟元帥「……うむ」 参謀軍師「?」 王弟元帥「いや、良い。伝令兵を出せ! 急がせろ」 ゴォオオッン!! ゴォオオン! 聖王国将官「カノーネですな」 王弟元帥「貴族軍が攻め入っているにもかかわらず、 後方からの射撃か。領主達が功を焦って 足を引っ張り合っているな……」 参謀軍師「今は一刻も早く南部連合を平らげて、 反転し指揮権を掌握すべきかと」 聖王国将官「了解っ! 伝令兵準備、前線を再構築しますっ」 254 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/13(金) 03 35 27.38 ID rH.ZqWkP ――開門都市、近郊、遠征軍本陣 ゴォオオッン!! ゴォオオン! 光の銃兵「お、音が近づいて来ただな」 光の槍兵「ああ……」 光の護衛兵「とうとう戦になるんだか。俺はまだ訓練でしか 剣を振ったことがないのに……。ま、魔族か。 来るのか、あいつらがっ」 ギィン! キィン! 「……ために!」 光の銃兵「い、いや。そうとは限らないぞ。後方に迫ってる 南部の裏切りどもの相手をすることになるかも知れねぇ」 光の槍兵「裏切り……かぁ……」 光の護衛兵「裏切り、なのか」 光の銃兵「だってそうだろう? あいつらは破門された異端者をかばった、異端の国々だ」 光の槍兵「腹一杯食うのは、異端なのかな……」 ズギュゥゥン!! 光の護衛兵「っ!」 光の銃兵「今のは、近かったな」 光の槍兵「ああ、近かった」 ダカダッダカダッダカダッ!! 光の中隊長「お前ら、そろっているかっ!」 255 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/13(金) 03 37 52.67 ID rH.ZqWkP 光の護衛兵「はっ、はい」 光の銃兵「そろってるだよ!」 光の槍兵「そろっております」 光の中隊長「今より進軍を開始する、整列せよっ!」 光の銃兵「どこへっ?」 光の槍兵「……」 光の中隊長「光の子供の軍として、敵に突撃をするのだ」 光の銃兵「な、南部のヤツらですか!」 光の槍兵「南部かっ。くそっ! くそっ!」 光の中隊長「それは我らが考える。早く整列をしろっ!」 光の銃兵「はっ、はいっ!」 光の槍兵「了解しましたっ!」 わぁぁぁああ、わあぁぁぁあ カノーネ兵「な、なんだ?」 光の護衛兵「あれは」 光の中隊長「――! 大主教さまだっ!」 光の銃兵「大主教さまが壇上に……? ほ、本物だか」 光の槍兵「大主教さま」がばっ カノーネ兵 がばっ 光の護衛兵 がばっ 参謀軍師「腰を上げてくれましたか。遅いお出ましですが」 ページトップへ <前13-1へ|次13-3へ>
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<前13-4へ|次13-6へ> 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」13-5 429 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/16(月) 18 53 06.86 ID VaDFVbYP 大主教「この衣を引きはがせるのは勇者のみっ。 そして勇者が力を失った現在、 我の力を阻めるものは存在しないっ!」 ガキィッ! ギィン! 女騎士「その力で何を目指すっ!? 過ぎたる力でっ」 大主教「我は“次”へ向かうのだっ」 女騎士「次――?」 ギィン! ギキィン! ガッ! 女騎士「っ!」 大主教「そうだ。“次”だ。“次なる輪廻”だっ。 この世界はもはや収斂の最後の段階にあるっ。 これが逆転することはあり得ぬ。 生きようが死のうが構わぬではないか。 どうせ全て“無かったこと”になるのだっ。 思い出さえ残らぬ。思い出す存在も全ていなくなるのだからっ」 ギィン! ガッ! バシィィ! ヒュバッ! 大主教「我はこの世界には未練はない。 全てが滅びる時まで共にするほどの愛着も感じてはいないっ。 我は“次なる輪廻”へと旅立つ。精霊の力をもってなっ。 そして次の世界こそが終末点だ。 全ての旅の終わり。――それこそが“喜びの野”っ!! なぜなら今や魔王と勇者の二つの力を兼ね備えた そして“ただの人間”である我の能力は全てを越え 精霊さえも思うがままにする権能を手に入れるからだっ。 あの聖骸の熱量を取り込んだ我は“次なる輪廻”にて 光の精霊の地位を手に入れるっ! 否! 光の精霊として“喜びの野”へと降り立つっ。 そして、二度と世界を繰り返したりはしない。 人は愚かで、醜く、度し難いっ。 繰り返して救う価値などはないのだ。 ただそこには永遠に続く我の箱庭さえあればよいっ!」 430 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/16(月) 18 55 04.44 ID VaDFVbYP 女騎士「魔王の力を弄び、出した答えが……っ」 大主教「女騎士っ! 跪き、命乞いをせよっ!」 女騎士「だれがっ!」 大主教「戯けがっ」 ビキィィ! 女騎士(これはっ……!) 大主教「小器用な動きで回避を繰り返すが、 そのような手妻など何ほどのこともないっ。 我にはそれに対応するだけの膨大な力が、すでにある」 女騎士(まずいっ。これは広域殲滅用のっ……!) ジリっ! パチパチパチパチ…… 大主教「ふふふっ。命乞いをする気になったか? われを光の主として崇める気になったか?」 女騎士「黙れ。……私は湖畔修道会の騎士。 そして剣を捧げた主は、勇者ただ一人!! たとえ、全世界が雪を染める黒い煤のごとく汚れていようと、 お前が全てを焦がし尽くすほどの戦力を持っていたとしても 二君に仕えるような剣を私は持っていないっ。 私はっ。 勇者のっ!! 勇者だけのっ!! 守護騎士だっ!!」 ギィィィンン!!! 大主教「よく言った。死ぬが良いっ!! 24音! 集いて唱和せよっ!! “超高域雷撃滅呪”っ!!」 女騎士「~っ!!」 ――ズシャァァァーン!! 434 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/16(月) 19 51 36.63 ID VaDFVbYP ――開門都市近郊、遠征軍本陣 ギィン! ドグワァ!! 軍人子弟「後続っ! 立て直すでござるっ!!」 鉄国少尉「あのマスケット部隊を落とさなければ……っ」 ズギュゥゥンっ! 軍人子弟「ライフルの支援があるでござるっ! カノーネ部隊まで突撃! 四列縦走っ!」 鉄国騎士「大地のためにっ!」 ガシャン! 鉄国騎士「地の果てまでもお供しますぜっ! 卿!」 軍人子弟「はははっ! 行くでござるよっ! 突撃っ!!」 鉄国少尉「くっ!」 ドゥン! ドゥン!! ドゥゥン!! 光の銃兵「く、くるなぁ!! 来ないでくれぇ」 光の銃兵「撃つぞ、撃つんだぞぉ!」 鉄国騎士「やぁぁぁぁ!!」 ガキィン! 鉄国騎士「はぁっ!」 軍人子弟(すでに損害が20を越えたでござるっ……。 だが、もうすこしっ……。あと数百歩で、 カノンにたどり着けるっ) 鉄国少尉「どけぇ!! 我が道を阻むものは、 鉄国少尉が相手になる。退がれぇ! 精霊の名を戦に用いる卑怯者っ!! 恥を知れっ!!」 光の銃兵「ひぃっ! 死にたくないっ」 光の銃兵「俺たちだって死にたくないんだぁ」 ドゥン! ドゥン!! 鉄国少尉「っ!! がふっ!」 435 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/16(月) 19 52 58.45 ID VaDFVbYP 軍人子弟「少尉っ!!」 鉄国少尉「心配……無用です……」 ギィン! ガギィン!! 鉄国騎士「突撃っ!! 続けっ!」 鉄国騎士「二列、波状にて突貫っ!」 鉄国少尉「今はカノーネをっ!!」 軍人子弟「……ついてくるでござるよっ」 鉄国少尉「ええ。……ええ! どこまでだって!!」 軍人子弟「落馬するなら見捨ててゆくでござるっ」 鉄国少尉「お任せくださいっ。 わたしはまだまだあなたに 学ばなきゃならない事があるんです。 そしてあの素朴な国をいつまでも 守らなきゃならないんですからっ」 ドゥン! ドゥン!! ドゥゥン!! 軍人子弟「道を開けよっ!! 開けるのだっ!!」 ダガダッダガダッダガダッ! 鉄国少尉「護国卿……」 軍人子弟「いつまでもこの下らぬ騒ぎを 続けるつもりでござるかっ! 拙者はっ!! 拙者はもう、うんざりでござるっ!」 ギンッ!! 軍人子弟「焦げた匂いもっ!」 ガギンッ!! 軍人子弟「耳を覆いたくなる悲鳴もっ!!」 ドガァッ!! 軍人子弟「もうお終いにするでござるよっ!!」 437 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/16(月) 19 54 02.21 ID VaDFVbYP ――開門都市、9つの丘の神殿の鐘楼 ざぁざぁ~っ…… 器用な少年「風が出てきたなぁ」 若造傭兵「この高さだ。仕方ない」 生き残り傭兵「気をつけろよ」 器用な少年「まかせとけよぅ。いいのかな」 ――ゴォォン――どけぇ、どけぇ――精霊は―― 生き残り傭兵「いっちまおう」 若造傭兵 こくり 器用な少年「んじゃ、鳴らすぜ。……重いっ。 なんて重いんだよ、このやろう。んっせぇっ!!」 若造傭兵「……」 生き残り傭兵 ごくり 器用な少年「よいっしょぅ!!」 ――ァン。カラァン! カラァン!! カラァン!! 若造傭兵「よし」 カラァン! カラァン!! カラァン!! ラァン……! カラァアン!! カラァアン!! 生き残り傭兵「他のみんなも成功させたか。 九つの鐘が鳴っている。ははっ! みんなぽかんと見上げてるぜ! 遠征軍も、都市の連中も!」 器用な少年「そりゃいいけれど、 どーやって逃げ出すんだよ、こっから!」 若造傭兵「そいつぁ姉ちゃんがどうにかすんだろうよ。 俺たちはほんの一分か二分、 連中を呆気にとらせりゃそれでいいのさ」 438 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/16(月) 19 55 54.32 ID VaDFVbYP ――開門都市近郊、世界の終わりのような戦場 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!! 斥候兵「え?」 光の銃兵「な……」 光の槍兵「なんだ、この音は」 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!! 鉄国騎士「音が……」 軍人子弟「音が降ってくるで……ござる……」 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!! 光の農奴兵「どこから……」 光の傷病兵「大聖堂の鐘みてぇな……」 光の少年兵「なんて綺麗な音なんだろう」 奏楽子弟「陽が差し込んでくる」 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!! 獣人軍人「風が吹いてくる……」 巨人作業員「オォ……砲声が、やんだ……」 義勇軍弓兵「静かだ……。戦場なのに」 土木師弟(雲が、切れる……。奏楽子弟……) ラァン……! カラァアン!! カラァアン!! 王弟元帥「なんだっ。鐘の音ではないか。 貴族軍が占領を達成したのか。この音は、この風はっ」 ザクッザクッザクッ 聖王国将官「元帥閣下っ。お気を付けくださいっ」 ザクッザクッザクッ 貴族子弟「――」 王弟元帥「……ここで来るか」 メイド姉「お目にかかりに参りました。王弟閣下」にこり 461 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 00 41 50.23 ID Afl8afoP ――開門都市近郊、遠征軍本陣、その中央 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!! 王弟元帥「約束どおり、というわけか」 メイド姉「はい、お約束どおり」 王弟元帥「それにしては援軍の姿が見えないが?」 メイド姉「いずれ参ります」 王弟元帥「ここは戦場だ、女子供の来るところではない」 メイド姉「勇者だ。と申し上げたはずです」 王弟元帥「……退くつもりはないということか」 メイド姉「退いて頂く交渉をしに来たのですから」 王弟元帥「この期に及んで。この血と硝煙の香りに満ちた 裂壊と怒号の戦場においてそのような綺麗事を語るか。 ここは死と鋼鉄がその意を通す場所だ。 宣告しておいたはずだ。次に出会う時は戦場だと。 我は我の意志を通すためならば、娘。 そのはらわたを串刺しにすることも厭わぬ」 聖王国将官「閣下……っ」 メイド姉「王弟閣下はそのようなことはなさりません」 王弟元帥「なぜそのようなことが云えるっ」 メイド姉「この戦場に存在する勢力、軍勢のうち、 私の麾下にあると観測されるものは一つもないからです。 で、ある以上、この場で私を殺したとしても、 それは王弟閣下が、目障りにわめき立てる小娘一人を 腹立ち紛れに黙らせた、と云うことに過ぎません。 戦場に満ちる問題を一個として解決することにはならない。 それは個人的なただの気晴らし。 ……王弟閣下はそのようなことはしません」 王弟元帥「ずいぶん高く買ったものだな」 463 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 00 43 42.16 ID Afl8afoP メイド姉「そのようなことをするくらいならば 私を生かしておき出来るだけの情報を絞ろうとする。 もしくは何らかの勢力に対しての 外向的な取引材料になるのならば身柄を拘束しようとする。 その方が妥当です。 合理的、と云う意味では、中央諸国家で もっとも信用に値する方だと思っています」 王弟元帥「……。自らが云ったように、拘束されると 云うことは考えぬのか。若い娘の身で」 メイド姉「我が身可愛さをここで出すくらいなら そもそもこの戦場に立つ資格はない。 そう思いませんか?」にこり ……ァァン。カラァァン。 王弟元帥「この鐘の音も、そなたか?」 メイド姉「そうかもしれませんね」 あ、あの娘は……? 王弟閣下になにを……あの娘……まさか まさかって……まさか、魔族? い、いや人間に見えるぞ、誰なんだ ざわざわざわ…… 王弟元帥「よかろう。前置きは終わりだ。 聞こうではないか。その方の要求を」 メイド姉「戦争の終結。遠征軍の撤退です」 王弟元帥「出来るはずもない」 メイド姉「この都市は都市国家としての主権を持っています。 また、遠征軍が通ってきた領土は この地に済む氏族の支配領域七つを侵犯しています。 遠征軍が犯してきた犯罪的行為を続けることは、 遠征軍およびそれぞれの所属国家に 百年にわたる大きな負債を背負わせるでしょう」 464 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 00 45 55.43 ID Afl8afoP 王弟元帥「この度の遠征は先にも述べたとおり、 教会の宗教的号令に従って自発的に集った 自由意志の民衆による聖遺物奪還運動なのだ。 その運動を国家の責に帰そうとする論には賛成できない」 貴族子弟「そのような言い逃れが通るとでも?」 王弟元帥「どのような道理であろうと、 道理を守るには相応の力が必要だ」 貴族子弟「どのような理不尽でも暴力が伴えば この世界においてまかり通ると聞こえますね」 王弟元帥「真実であろうさ」 貴族子弟「……っ」 メイド姉「力とは……。暴力とは常に相対的なものです。 “有るか、無いか”などという 粗雑な議論をするつもりはありません。 相手との相対的な差違のみが意味を持つのですから 絶対量は意味がない」 王弟元帥「賢者の言葉だな。だが、それがどうした」 ザカっ!! 参謀軍師「王弟閣下っ!!」 王弟元帥「どうしたっ」 聖王国将官「何があったのです」 参謀軍師「そ、それがっ」ちらっ 王弟元帥「申せ」 参謀軍師「は、はいっ。それが、まだ遠距離ではありますが 徒歩一日以内の地点に、魔族の援軍、数万が集結を」 メイド姉「――」 王弟元帥「数万だと……」 参謀軍師「いえ、それは最低限でして。 ……とどまる様子はありません。 この様子では、数日のうちに十万を超える恐れも」 465 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 00 48 16.40 ID Afl8afoP メイド姉「――」 にこにこ 王弟元帥「これが。……これがその方の援軍か」 メイド姉「そうとって頂いても構いませんよ?」 貴族子弟(よく言う。……その数は、軍勢なんかじゃない。 忽鄰塔にあつまってきた非武装の魔族の民だ。 魔王の戦いを見届けるために集まった氏族に過ぎないじゃないか。 数はそりゃ確かに十万にふくれあがるかも知れないが、 所詮は泡だ。マスケットでつつけば、パチンと割れる) メイド姉「……」 王弟元帥「……」 ぎろっ 聖王国将官「い、いかがいたしましょう」 メイド姉「……」 王弟元帥「……はったりだな」 貴族子弟(なっ!? だからといって、気が付くのかっ!?) メイド姉「とは?」 王弟元帥「この短期間でそれほどの援軍を組織できるはずもない。 もし組織できるのであれば、とっくに現われて 我が軍に一撃を食らわせているはずだ。 で、有るならば、その軍勢は幻術による偽りか なんらかの策……。 たとえば、偽の軍装によっていつわった烏合の衆なのだ。 それだけの戦力を温存する理由は、無い」 メイド姉「それでも、構わないのではありませんか?」 王弟元帥「なぜだ」 メイド姉「いま、重要なのは“開門都市を包囲していた遠征軍が 二週間をおいてもなお都市攻略に成功していない”という事実。 ここに“包囲していたはずの遠征軍が、十万の魔族によって 逆に包囲されている”という事実を加えれば……。 ……軍が本物か、偽りかなどというのは 些末な違いに過ぎないかと思います」 聖王国将官「そ、それは……」 王弟元帥「軍の士気、ひいては我が掌握能力に問題があると?」 466 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 00 50 51.51 ID Afl8afoP メイド姉「普段であるならば問題はないでしょう。 しかし、良くも悪くも王弟閣下の仰ったように、 この遠征軍の大儀は信仰です。 精神的支柱を王弟閣下のカリスマだけに 依存するわけにはいかない。 それが可能であったとしても、です。 そして、今のこの乱戦は、信仰の中心が揺らいでいるせい。 ……ちがいますか?」 王弟元帥「好きに解釈すれば良かろう」 メイド姉「この状況下において戦闘を継続すればどうなります」 聖王国将官「……」 貴族子弟(流れは悪くないのか……。しかし、先が読めない。 相手が悪い。いくら我が姉弟弟子とはいってもなぁ) メイド姉「どちらが勝つにせよ、双方に壊滅的なダメージが残る。 そのようなことは百害あって一理もないではありませんか」 王弟元帥「確かにそうなる可能性が高いだろう。 しかし、では撤退をしてどうなる? この戦を始めたのは教会だ。 では教会が責任を取るのか? 否だっ。 責任など取りはしない。 そして、責任を誰も取らぬ以上、 この遠征に財をつぎ込み財政難に陥った諸侯は 秩序を保つことが出来なくなるだろう。 そうなってしまっては略奪が横行し、 中央国家群でも小競り合いが頻発することは想像に難くない。 この魔界で富を。少なくとも、富の予感を手に入れない限り 中央諸国家のふくれあがった欲望は制御不能なのだっ。 それはつまり、中央諸国家体制の崩壊。 その方の云う“壊滅的なダメージ”だ」 メイド姉「そんなっ」 王弟元帥「撤退しても戦っても、我がほうには壊滅的な被害が出る。 ならばここは戦って魔族や南部連合にも ダメージを与えておくべきなのだ。 そうすれば復興の時間に、外部から侵略をされずに済む。 違うかな? 学士の娘よ。それが国家の安全保障ではないか」 467 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 00 52 58.61 ID Afl8afoP ザッザッザッ 東の砦将「そいつは、族長としていかがなもんかね。 自滅しながらの巻き添え攻撃のような策略とは 下策としか言いようがないと思いますぜ」 青年商人「遠征軍の責任者“ではない”以上、 仕方ない判断かと思いますよ」 聖王国将官「お前達は何者だっ!」 東の砦将「何者かと聞かれてますが」 青年商人「一番乗りだと思ったんですが、ね。 ですから、あの方の知己にはいつも驚かされる」 東の砦将「このお嬢さんは…」 青年商人「あの方の家で会いました。そうですね?」 メイド姉「はい、ご無沙汰しています」ぺこりっ 貴族子弟(青年商人。同盟の有力商人、十人委員会の一人。 かつて出会った時よりもすごみをましたなぁ。 師匠並だぞ、この迫力は) 王弟元帥「貴公らは何者か。 このような戦場のまっただ中に何をしに来た?」 東の砦将「それがしは。あー。あの開門都市の氏族長。 人間で云うところの市長を務めている。砦将といいますな」 青年商人「あの都市の防衛軍最高責任者 その代理というところでしょうか。青年商人と申します」 聖王国将官「っ!? 銃士っ! こいつらをっ!」 王弟元帥「やめろっ!!」 聖王国将官「~っ!?」 東の砦将「良い判断ですな」 ……すっ 470 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01 31 44.78 ID Afl8afoP 王弟元帥「いつカノーネを鹵獲した?」 東の砦将「いや、一台くらいならね」 王弟元帥「揃ってお出ましとはなんの話だ。 降伏でもしに来たのか? ふふんっ」 青年商人「馬鹿を云わないでください。スカウトしに来たんですよ」 王弟元帥「は?」 青年商人「聖王国の王弟将軍と云えば、 中央大陸でも名の知られた英雄。カリスマですからね。 合理的思考と切れすぎる戦略で 早くから名を馳せた戦場の風雲児。 戦術戦略のみならず、外交や財政にも果断な判断能力をもつ 大陸最大級の人材です」 王弟元帥「ずいぶんと詳しいのだな、人間の事情に」 青年商人「私は人間ですよ。人間が魔族の軍を 率いていては変ですか?」 王弟元帥「いや……。そうか。 『同盟』に異端の商人がいると風の噂で聞いた。 小麦相場で大陸中の金貨をさらったというのは……」 東の砦将「はぁ!? そんなことまでやってたのかぁ?」 青年商人「人聞きが悪いですよ。ほんのちょっぴりじゃないですか」 聖王国将官「――“小麦を統べる商人王”」 がくがくっ メイド姉「ふふふっ」 王弟元帥「その男が何を求める」 青年商人「ですからスカウト。人材の勧誘と、一つの質問を」 471 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01 33 51.24 ID Afl8afoP 王弟元帥「――どいつもこいつも、戦場である弁えもなく」 ザッ 冬寂王「であるならば」 王弟元帥「おまえは、冬寂王っ!」 冬寂王「率直な降伏勧告は、我が方のみということかな」 王弟元帥「降伏勧告だと。南部連合に? 中央大陸の秩序の破壊者に下げる頭など無いわっ」 冬寂王「南部連合に下げろ、とは云わぬさ。 ……ここに書状がある。修道会からだ」 聖王国将官「修道会、から……?」 王弟元帥「なにを」 貴族子弟「そうきましたか。……ずいぶん思い切りますね」 メイド姉「冬寂王様」 冬寂王「どうした? 学士よ」 メイド姉「……なにとぞ慈悲を」 冬寂王「判っている」 こくり 王弟元帥「何を言っているっ」 冬寂王「まぁ、時間を掛けて読むが良かろう。 言葉を飾ってあるが、中身はこうだ。 “人の国に入り込んで戦を行なうようなものは、破門する” それだけだよ」 王弟元帥「破門……」 聖王国将官「それは」 472 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01 35 54.16 ID Afl8afoP 貴族子弟「もちろん、聖光教会を奉じる聖王国にとっては 直接何らかの影響があるわけではありません。 もちろんお気づきだと思いますが、この書状の意味は」 ――天然痘の接種は、受けさせない。 聖王国将官「~っ!」 貴族子弟「そのようなことになれば、5年、10年を待たずに 国は寂れ、人々は移住し……。交易の順路からも外された 地方の村のような惨状になるかと」 メイド姉「私はそのような交渉方法を好ましいとは思いません」 冬寂王「もちろんだ。だが、学士よ。 そもそも、戦争とは好ましいことではないのだ。 そして、チャンスがあるのならば、 どんな手段を使ってもそれを終わらせる。 この交渉の場はな、我が南部連合の兵士の命であがなった 数少ない空隙だと云うことも忘れて貰っては、困る。 もはやここに至っては、交戦行為を一刻も早く終わらせることが 慈悲であると知ってくれ」 王弟元帥「破門を引き下げる代わりに、降伏しろと?」 冬寂王「そうだ」 王弟元帥「遠征軍は我一人の意志で動かせる軍ではない。 大主教猊下の号令によって動く、複数の国家、 そして多くの領主の参加する軍だ。 我のみが破門を免れたとしてどのような責任も取れぬ」 青年商人「逃げ口上はやめてください。 どう考えても、どう見ても、 あなたが実質上の意志決定者であることは疑う余地がない」 王弟元帥「ここまで混沌と狂信に染まった軍を 撤退させる難しさが判らない貴君らではあるまいっ。 すでに賽は投げられた。一矢は射られたのだ。 もはや雌雄を決するしかないのが判らないのか。 時の流れは、人間か、魔族かのどちらか一方を選ぶと その意思を表したのだ。 この世界は、両者を住まわせるに 十分な広さがないとなぜ判らぬっ。 世界はそれほど寛大ではないのだっ」 474 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01 41 35.63 ID Afl8afoP メイド姉「争いを始めるのに精霊を理由に用い、 今また争いを継続するために世界を言い訳にするのですか? ――たしかに。 確かに“彼女”は間違ったかも知れない」 東の砦将「は?」 メイド姉「確かに“彼女”は間違ったかも知れない。 わたし達がこんなにも愚かなのは、 彼女がわたし達に炎の熱さを教えなかったから。 わたし達はゆりかごの中でそれを学ばずに 育ってしまったのかも知れない。 それは彼女の罪なのかも知れない。 しかしいつまで彼女と彼女の罪に甘えるつもりですか、我々はっ」 聖王国将官「何を……。何を言っているのだ?」 メイド姉「“彼女”に……。 光の精霊にいつまで甘えているのかと問うているんですっ。 争いを始めるのに“彼女”の名前をいつまで使うのですか? 人を殺すのに彼女の名前を用いて正当化するなどと云う 卑劣な責任回避をいつまで続けるおつもりですかっ。 “この世界は、両者を住まわせるに十分な広さがない”? 世界の許可が必要なのですかっ!? わたし達が……。 今! ここにいるわたし達が、今この瞬間に責を取らずして どこの誰にその責任を押しつけようというのですかっ。 確かに民は愚かかもしれません。 しかし、彼らは望むと望まざるとに関わらず、 その責任を取るのです。 飢え、寒さ、貧困、戦。 ――つまるところ、望まぬ死という形で。 王弟閣下。あなたは英雄ではないのですか。 私はそう思っています。あなたもあの細い道を歩く一人だと」 王弟元帥「何を望むのだっ。勇者よ。 世界を守るというのならば――。 世界を変えるというのならば、我にその方の力を見せるが良いっ」 メイド姉「望むのは平和。ほんの少しの譲歩。 そしてわずかな共感と、刹那のふれ合い。 それだけしか望みません。 それだけで、わたし達は立派にやっていける。 その後のことは“みんな”が上手く形にしてくれる。 私はそれを信じています。 だって信じて貰えなければ、私は人間でさえなかったんですから。 あの日、あの夜。あの馬小屋の中で 虫けらのままで死んでいたんですから」 476 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01 42 24.23 ID Afl8afoP 青年商人「……」 冬寂王「……」 王弟元帥「その戯れ言を通すだけの力が、 その方にあるというのか」 メイド姉「私に武力はありませんから」 王弟元帥「お前の援軍とやらは、 全て集まるのにまだ十日もかかるのだぞ」 メイド姉「では、私が連れてきた本当の援軍をご紹介しましょう」 聖王国将官「なっ!?」 きょろきょろ 王弟元帥「見せてみるがいいさ。 その方の甘い理想論をかなえる力とやらを」 メイド姉「はい……。王弟閣下、手をお借りしますね」 ぱぁぁああああああ!!! 王弟元帥「そ……それはっ……」 メイド姉「――“ひかりのたま”です。 これは、彼女の残した恩寵。 光の精霊自らがこの世界へと残した、忘れ得ぬ炎」 聖王国将官「ま、ま、まさかっ」 ――な、なんだあの光は!? ――ま、まさか精霊さま!? あの娘っこは、精霊様の使いだったのか!? 間違いない、この光は…… なんて優しい、綺麗な光なんだ……。 身体の痛みがみんな、何もかんも無くなっていくようだ。 精霊の巫女様に違いねぇ…… メイド姉「はい。勇者の名において。 これが“聖骸”であると、ここに告げましょう。 そしてこの聖遺物を……。王弟閣下に贈ります」 東の砦将「っ!?」 青年商人「……ははっ! ははははははっ! これはすごい。すごいなっ!」 王弟元帥「なぜっ!? 何をしている、なぜそうなるっ!?」 477 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01 44 14.24 ID Afl8afoP メイド姉「私の援軍は、あなたです」 王弟元帥「!」 メイド姉「王弟閣下が、私の援軍です。 魔族が人間に、ではありません。 開門都市が、聖なる光教会に、でもありません。 わたしが、あなた個人に“聖骸”を贈ります。 あなたであれば、この“聖骸”を守り、 正しく用いてくれると信じるからです。 あなたであれば、聖鍵遠征軍を退けるに当たって 私のもっとも有力な援軍になってくださるからです」 東の砦将「……こいつぁ。奇襲なんてものじゃねぇや」 参謀軍師(何と言うことを考えるのですか、この娘は!! 確かに、この衆人環視の中、これだけ多くの将兵が見つめる中で 聖遺物を取り出されては……。 我々の大義の上で、無碍にするわけにはいかない。 この“聖骸”を求めてはるばるとやってきたという それが目的の組織である以上、こうして贈られてしまえば、 これ以上開門都市を攻略、攻撃をするという理由自体が 消失してしまう。 その上、この清らかなる光、偽物であるとはとても云えない。 何よりも将兵達は一瞬で納得してしまった。 この宝玉が“聖骸”であると信じてしまった。 その“聖骸”を個人間であろうが、こうして贈られるというのは ある意味で、開門都市が頭を下げたに等しい。 国家としては礼を返さぬ訳には行かぬ。 しかも狡猾なのは、たとえ我々が礼を尽くさなければならぬと しても、開門都市も魔族も実際には一歩も譲ってはいない、 何ら妥協も譲歩も、実際にはしていないという点だ。 これは個人間の贈答に過ぎないと娘は明言している。 ……多くの将兵は満足感を得るが、領地や賠償金などのやりとりは 発生しないようになっている。この娘、そこまで計算をして……) 冬寂王「重いな。……王弟殿」 479 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01 45 22.50 ID Afl8afoP 参謀軍師(そうだ。まさにその通りだ。 その上、これはとてつもなく重い決断を迫られる贈答物でもある。 この“聖骸”を受け取ったとして、聖王国の取り得る道は三つ。 第1の案は“聖骸”を聖光教会に献上する、というものだ。 しかし、それはもはや政治的にそこまでのうまみはない。 聖光教会はおのずの領分を越えて国家への干渉を強めている。 また、この学士という娘は“正しく使ってくれると信じる”と 断言した。つまり、それは、この“聖骸”を教会に譲るなど という手段に出ればそれ相応の報復を覚悟しろと云う 恫喝であると云えなくもない……。 一方、この“聖骸”を聖王国そのものが管理すると 云うことも考えられる。これが第2の案だ。 ……その場合、“聖骸”を所有する聖王国王家は 光の精霊由縁の血筋を持つ王家として、 中央諸国家の数多の王家とは別格の正当性を持つだろう。 まさに、支配権を天より携わった選ばれた王家だ。 この正当性は、旧来の秩序を維持したいという聖王国の政策上 巨大な、余りにも巨大な利点だ。 民衆も歓呼の声を上げて歓迎するだろう。 ……しかし、この方法は二つの注意点がある。 一つには、贈り物は、贈り物であると云うことだ。 この“聖骸”の由来を語る時“魔界で贈られた”という縁起に 触れざるを得ない。つまり、この方法を採るのならば、以降 魔界とは何らかの形で友好的な関係を構築する必要がある。 もう一点は、もし聖王国がこのようにして“聖骸”を 管理するのだとすれば、教会との確執は免れないという点だ。 第3の管理方法として、修道会と接近しそこに管理を委託する という事も考えられる。その場合、種痘の優先的な割り当てなど 利点を得られる。これは国の民意を高める上でも有効だろうが、 聖王国の目指す旧来型の権力構造に、修道会とその背後に控える 南部連合からなんらかの圧力がかかる可能性は十二分に検討する 必要がある。また第2の管理方法――聖王国の直接管理と 同じように、教会との確執は避けられない。 選ぶとすれば、2……だろうが。だとしても魔界には礼を尽くし この戦争はなんとしてでも終結させなければならない。 戦争を続けるためには1しかないが、それでさえ “相手から聖骸を与えられておきながらも虐殺の限りを尽くした” という余りにも外聞の悪い戦争継続方法になり、 士気はどん底にまで落ち込むだろう……) 482 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 02 12 03.56 ID Afl8afoP 王弟元帥「我の――我のっ。 我の何を信じるというのだとっ」 冬寂王「能力だろう?」 聖王国将官「それは……」 貴族子弟「能力であれば一級品なのは判りますからね。 実際容赦のない攻撃ですよ、本当に」 メイド姉「そうですか? 私は人柄も加味しましたよ?」 東の砦将「世間話みたいな雰囲気で、いけしゃぁしゃぁと」 青年商人「そういう一門なんですよ、彼らはね」 王弟元帥「巫山戯た事をっ。このような茶番をっ」 青年商人「ではお尋ねしますが、王弟閣下。 王弟閣下こそ茶番をしているのではないのですか?」 王弟元帥「……なにを」 青年商人「なぜ無能な兄王を、殺さないのですか? なぜ元帥という位置になど留まり続けているのですか? 全ての貴族に望まれ、何度となくその示唆を受け、 唆されながらも、王よりも巨大な名声を得てしてもなお、 なぜ元帥などという茶番を演じているのですか?」 聖王国将官「それは……」 王弟元帥「……っ。そのようなことっ」 青年商人「それが茶番でないのならば、 彼女の言葉も茶番ではないのですよ。 そして彼女の行為を茶番だと貶めるのならば、 貴方のやっていることも茶番に他ならない。 己の選んだ細い道。彼女はそう言いましたが 貴方が貴方自身の掟に従い守るべき対象があるように 彼女にもそれがある。 そしてそれは茶番などと云う安っぽい言葉で 片付けられるようなことではないっ」 484 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 02 17 13.81 ID Afl8afoP 東の砦将「……」 青年商人「さて、どうするんですか? もう一押ししなければなりませんか?」 王弟元帥「……その玉を、受け取ろう」 メイド姉「ありがとうございます」 冬寂王「これで、やっと……」 王弟元帥「それが我が国の国益に叶い。 もっとも我の影響力を最大化できる手法だから選ぶまでだ。 善意や好意などからでは断じてない。 ……大陸は、教会の影響を受けすぎていたのだ」 聖王国将官「……閣下」 貴族子弟(素直さに欠けるね、まったく) メイド姉「そうであっても構いません。 いえ、だからこそ。それだからこそ手を取り合う意味があります。 突発的な善意や好意からではなく、わたし達は利益を共有できる。 それは二つの種族が今後もこの狭い世界の中で過ごすために 必須の条件なのですから」 ――損得勘定は、我ら共通の言葉だと。 青年商人「……そうでしたね。貴女はいつもそう言っていた」 ぱぁぁぁああああ!!!! 東の砦将「なんて華麗な輝きなんだ」 メイド姉「この宝玉も、新しい持ち主を歓迎しています」 ゆらぁ、がさっ。がさっ。 百合騎士団隊長「ゆるさない。ゆるさない。 そんなのはゆるされない。 そんなのは、精霊の救いじゃない。 そんなものは、赤き救済ではない。 そんな結末は認めない。 そんな救われかたはなかった。 なかった。 私にはなかった。 貴女は精霊の巫女じゃない。 それが聖骸であるはずがない。 悪魔。――悪魔の使い。貴女は、悪魔のっ」 ゴゥゥゥーン!! 510 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 17 39 56.74 ID G90fcMMP ――光の塔、その道程 ……シャゴォォォン!!! ……ィンィンィン……!! 女騎士「っ! ……はぁ。……はぁ」 大主教「しのぐのか。ふはははっ。それはなんだ? 結界祈祷か? 見知らぬ術だな。 ……修道会の秘術とみえる。光壁系の派生祈祷だな?」 女騎士「……はぁ、はぁ。……全周囲の衝撃相殺奇跡だ」 大主教「しかし、衝撃や物理的圧力だけではなく 電撃まで防ぐとは……。見事な術だな」 女騎士(くっ。このままじゃ……) 大主教「だが、いつまで続く? いくつ躱せる?」 女騎士「云っただろうっ!? 限りなくだとっ」 大主教「よかろうっ! 今一度っ! 24音! 集いて唱和せよっ!! “超高域雷撃滅呪”っ!!」 女騎士「間に合えっ! “光砦祈祷”ッ!!」 バチバチィ! ギュダン、ズシャァァァ!! だんっ。ずしゃぁっ! 女騎士「かふっ……。がはっぁ……」ばたっ 大主教「空間の電位擾乱までは無効化できないようだな」 女騎士「これくらい……。げふっ……かはっ……」 大主教「喀血か。肺が灼けたか。ははははっ」 女騎士「これしきの傷……っ」 こつん 女騎士(これは……。なんでこれがここにっ!?) ――そんな顔をするな。勇者。 ほら、荷物は置け。 鎧も脱げ。今更関係ないから。 女騎士(置いて行ったのかっ。あの馬鹿ッ! 何でこれをっ!? 重さなんて関係ないのにっ。 何でこいつまで……。あの馬鹿勇者ッ! それじゃ。それじゃぁあいつ、丸腰じゃないかっ!?) 512 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 17 41 34.50 ID G90fcMMP 大主教「どうした? 青ざめて。 追いつかれたか、絶望に? ……良かろう。古のあの言葉を贈ろうではないか」 女騎士「何を言う気だ、化物」 大主教「――世界の半分を与えよう。我が膝下に屈するがいい」 女騎士「……っ」 大主教「その方の剣技はまさしく世界最高峰の一角。 今この場にいるのも都合がよい。 新しく生まれ変わり“喜びの野”を統べるにあたり 我にはこの両腕に変わる“手”が必要だろう。 ――世界の半分を与えよう。 その苦痛と恐怖を終了させ、我が配下となるがいい」 女騎士「ははっ」 大主教「……?」 女騎士「そうかそうか。 ……本来はこういう言葉なんだな、勇者。 こうして下卑て響くのが、本物。 だとしたら……。 やっぱり、その魔王は……奇跡だ。 当たり前か、わたしの親友だもんな」 大主教「何を言っているのだ?」 女騎士「空々しいよ。なんて虚しく響くんだ。 お前の言葉は。最初から中身なんか無い。 お前はわたしに興味なんてさっぱり無いよな。 ただ単純に、便利な人形が一つ欲しいだけだ」 大主教「その何処がおかしい?」 女騎士「いいや、おかしくはない。 その要求は判るよ。そう言う手下も欲しいだろうさ。 大魔王なんだから」 大主教「やっと認めたか」 513 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 17 42 36.80 ID G90fcMMP 女騎士「ああ。大魔王だ。……魔王じゃない。 魔物の王ではなくて、魔物の王から生まれた変異。 魔物の王のすらも見下ろす、異常体だ。 その力は精霊にも匹敵する、史上最悪の化物」 大主教「自らの分をわきまえたか」 女騎士「だけどね」 ジャキッ 大主教「――っ」 女騎士「わたしは魔王の方がよほど好きだっ。 お前は、大魔王かも知れないっ。 でも“王”じゃないっ。 民を思わない孤独な人形遣いだっ。 はぁぁっ! せいやぁっ!!」 ギンッ! ギキンッ! ジャギィンっ!! 大主教「何をしているッ? そのような攻撃で“やみのころも”は解けはしないっ」 女騎士「お前はお前の思うとおりの世界を弄びたいだけだっ。 “新世界”? “次なる輪廻”? “喜びの野”!? 虚ろな目をした人間がお前をあがめる芝居小屋じゃないか。 そんな所に君臨するのが楽しいのか。そんな空虚な世界がっ」 ギィィン!! 大主教「なぜそれを否定するっ。それこそが! まさにそれこそが炎の娘、光の精霊が願った 完全なる調和の世界だッ! お前も聖職者であれば判るだろうっ。 そこにどれほどの幸せがあるのか。 民の苦痛も不安もなく安寧と平安が支配する これほどの慈悲があるか? だれも憎まず、争わず、永遠にあり続ける。 いいや、ありえんっ。 それが最高の楽園でなくてなんだというッ!!」 女騎士「お前の歪んだ欲望と、 “彼女”の祈りを一緒にするなぁっ!!」 ――その珠を、受け取ろう。 ザシュゥッ!! 514 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 17 44 19.21 ID G90fcMMP 大主教「!?」 女騎士「はぁっ。はぁっ……。行けるじゃないか」 大主教「なぜ。なぜだ!?」 女騎士「はぁぁっ!! 切り裂けぇっ!!」 ザシャッ! ザシュゥ!! 大主教「なぜ“やみのころも”がっ。 絶対の防御がっ。 ……馬鹿な。誰がッ!? だれが“ひかりのたま”を見つけだしたというのだ!? あの失われた聖遺物を。 何処の誰が掲げたというのだっ!? あれを扱えるのは勇者のみのはずっ」 女騎士「霧が晴れてきた……ぞ。 かはっ、かはっ……。 ……やはり本体は、細いじゃないか。 経ばかり唱えている、やせこけた、身体だッ」 大主教「……っ。それがどのような影響がある。 我にはまだ無限の法術と、再生能力がある。 “やみのころも”は大魔王のもつ力の一つに過ぎぬっ」 女騎士「だからどうしたっ」 ヒュバッ! ギィン! ギキィン! キンッ! キンッ! ドカァッ!! 大主教「はぁっ! “光壁祈祷”っ! “斬撃祈祷”っ! “光波雷撃呪”っ!! “六連”っ!」 女騎士「っ!!」 バシンッ! グシャッ ドンドンドンドンッ!! ガキィッ!! 大主教「“やみのころも”が晴れたからどうしたというのだ!? 現にお前はそこに虫けらのように転がっているではないか。 認めよっ! 認めて屈するがいいっ!!」 ページトップへ <前13-4へ|次13-6へ>
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<前9-1へ|次9-3へ> 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」9-2 269 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 18 37 08.36 ID chcZF3wP ――鉄の国南部、辺境の森の中 ガササッ。ガササッ。 鉄国少尉「もう少し先ですね」 衛門案内兵「そうです」 鉄腕王「……」 軍人子弟「王よ、そんなに気むずかしい顔はしないでござるよ」 鉄国少尉「そうですよ」 鉄腕王「うむ。しかし……」 ガササッ。ガササッ。 衛門案内兵「この谷をお借りしています」 鉄腕王「ふむ」 ザッザッザッ 衛門案内兵「鉄の国の王をご案内しました」 ガサッ 東の砦将「ご苦労さん」 軍人子弟「ふむ」 鉄国少尉(随分出来る気配の人だな……) 東の砦将「色々お礼を述べなければなりませんが、 あちらに天幕が張ってあります。ご案内しましょう」 271 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 18 40 16.01 ID chcZF3wP ――鉄の国南部、辺境の森、獣人族の大天幕 バサッ 鉄国少尉(ふむ……) 東の砦将「こちらにどうぞ。……あー。 すいませんね、根ががさつなやつらばかりなもので。 おい、飲み物をお持ちしろ」 獣牙戦士「はっ」 軍人子弟「いや、お気になさらず、楽に。 拙者達も軍人でござるから。 礼儀作法にこだわりはないでござるよ」 東の砦将「そう言っていただけると助るな。 いや、生まれが悪いもんで言葉遣いは勘弁してくれ。 俺は、東の砦将。もとは第二回聖鍵遠征軍参加の 傭兵で、そのあとは長い間開門都市の駐留部隊の 分隊長をやっていた。 運命の変転だか数奇な偶然だかに巻き込まれて、 いまでは開門都市自治委員会のとりまとめ、 九氏族の一つ、衛門族の長をやっている。 今回の蒼魔討伐作戦では、左府将軍を仰せつかった」 銀虎公「我の名は銀虎公。 魔界の九氏族の一つ、獣牙一族の長。 今回の戦いでは、右府将軍を務めるものだ」 鉄国少尉(……こっちの将軍は、すごい闘気だな) 273 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 18 41 49.99 ID chcZF3wP 軍人子弟「拙者は鉄の国の護民 卿を拝命している 軍人子弟と申す者でござる。 先だっての蔓穂ヶ原の戦いでは副司令官を つとめてござった。 こちらにいらっしゃるのが、鉄腕王。 この鉄の国の王にして、南部連合首脳でござる。 本日は、南部連合の代表としてこの会見に 参加しているでござるよ」 鉄腕王 こくり 銀虎公「まずは、この場を借りてお礼を申し上げる。 蒼魔族は我ら魔族にとっても魔王殿に弓引く逆賊。 その討伐のために軍の通行を許可いただいた。 我らは恩義を感じている」 東の砦将「魔族の勢力争い、いわば内輪もめの とばっちりを人間界にかけたことに関しても 氏族は謝意をもっている」 鉄腕王「……」 軍人子弟「王。鉄腕王。……意地張っている場合 じゃないでござるってば」 鉄国少尉「そ、そうですよっ」 鉄腕王「……」じぃっ 銀虎公「……」じっ 276 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 18 44 25.10 ID chcZF3wP 鉄腕王「……今回の戦いでは、獣牙一族も 大きな犠牲を出したと聞くが」 銀虎公「たしかに。人間の乱入軍のもつ 得体の知れない武器に傷つき倒れた者もいる。 しかしいずれの獣牙の勇者達。雄々しく散ったのだ」 鉄腕王「心中お察しする」 銀虎公「……」 東の砦将(ふぅ……) 軍人子弟(何とかなったでござるか) 鉄腕王「この森は深い。未開の原生林だ。不便はないかね」 銀虎公「ない。我らは山野の民だ。ここは空気が美しく 過ごすのによい場所だ。提供してくれたことを感謝しよう」 軍人子弟「食料はどうですか?」 東の砦将「あっちから持ってきたものがある。 あと箱森で、猪だの鹿だのを多少とらせてもらえば それで間に合うはずだ。なんにせよ、長居するつもりもない」 鉄腕王「では、後ほど、いくつかの物資と酒を届けさせよう」 銀虎公「かたじけない」 鉄腕王「では、行くぞ」がたり 278 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 18 45 38.97 ID chcZF3wP 東の砦将「いやいやっ。せっかく来ていただいたんだ」 軍人子弟「そうでござるよ。この機会に詰めておくべき事も」 鉄腕王「互いにともがらを失ったのだ。 それを送るには、今少しの時間と酒がいるだろう。 われら鉄の国は武の国だ。武には武の礼節がある」 銀虎公「……」 東の砦将「……」 軍人子弟「そう……で、ござるね」 東の砦将「お気遣い、感謝いたす」 鉄腕王「それに細々しい外向的な用向きは 冬の女王と、そちらの外交使節団が片付けるだろうよ。 まだ魔族と急に握手をする気にはなれん。 多くの国民もそうだろ。 しかし今度逢う時は、もうちょっと わだかまり無く酒が飲める。そんな時代になるといいな」 銀虎公 こくり 東の砦将「……」 鉄腕王「では、行く」 ざっ 銀虎公「獣牙の戦士を、槍を掲げてお送りしろ」 獣牙戦士「はっ」 獣牙戦士「戦士の一族の魂に慰めあれっ」 282 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 19 17 36.57 ID chcZF3wP ――冬越しの村、湖畔修道院、院長の私室 女騎士「ふむ……」 魔王「覚悟は決めた」 メイド長「まおー様も立派になられて」うるっ 女騎士「で、どうするつもりなの?」 魔王「それが全く判らない」 女騎士「……おいおい」 魔王「いや、私たちの一族は誰でもそうだが 基本的には自分の研究ジャンル以外には疎いのだ。 わたしは経済と言うことで、技術史や社会学にも 多少の知識はあるが、それでも専門からはほど遠い。 ましてや軍事学など専門外なのだ」 女騎士「そうか……。 魔王だからてっきりそっちの専門家かと」 魔王「とんでもない」 女騎士「だがしかし、マスケットとかは 魔王がアイデアをスケッチして、 鉄の国の技術者に施策を依頼したのだろう?」 魔王「そうだ。その情報が漏れて、 中央に伝わったとしか考えられない。 わたしは異端騒ぎで掴まっていたりしたからな。 そんなときに怖くなった職人の誰かから 聖教会へと漏れたのだろう」 メイド長「……そうですね」 283 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 19 19 59.35 ID chcZF3wP 女騎士「これか」 かちゃり メイド長「あら、手に入れたのですか?」 女騎士「戦場を捜索して何個かはな。 だが、やはり良く判らない。 説明をしてみてくれないか?」 ガチャガチャ 魔王「ふむ、思ったよりも軽いな。 工作精度の問題か……。 乱暴に説明をするとこのマスケットは、鉄の筒だ。 筒の中に、丸い金属の玉と、火薬を詰める」 女騎士「火薬というのは昔話していたあれ?」 魔王「そうだ。ガンパウダーだ。 この火薬という物質は、火を付けると激しい勢いで爆発する。 密閉された容器での爆発力は開放部分に集中するので、 高速で玉が飛び出す。言ってしまえばそれだけの仕掛けだ」 女騎士「聞いてみると随分単純な武器なんだね」 魔王「単純だが、要するに刃のついた棒を 振り回しているだけの剣や槍よりは複雑だな」 女騎士「それもそうか……。 で、このマスケットは武器としての性能は どのようなものなの?」 魔王「正確なものは実験しなくては判らない。 と、いうものの、基本構造は今言ったように単純だが、 精度や工夫には様々な課題があるからだ」 284 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 19 21 25.50 ID chcZF3wP 女騎士「……そうか」 魔王「だが、見た感じで言うと、 射程距離はおおよそ100歩くらいで、 威力は板金鎧を打ち抜くほどではないだろうか」 女騎士「たいしたものだ。石弓を上回るんだね」 魔王「そうだ。発射間隔は5分に一度から、 1分に一度程度まで、これは射手の練習度に大きく依存する。 命中精度もまた同じく射手次第だな」 女騎士「ふむふむ」 魔王「ただし、この長い筒を玉が駆け抜けていって 殆ど直線上に飛ぶし、矢よりも風の影響は受けづらい。 だから、素人が使うのならば、矢よりも命中率はいいはずだ」 女騎士「……」 魔王「それに、説明でうすうす想像もついているかと思うが 弓の反発力で矢を飛ばす長弓は、弓の大きさ素材が威力を 決める。つまり、引く力が威力に直結する。 石弓も同じ機構だが、クランクやギアなどで引く力を 肩代わりできる点が違うわけだな。 そこへゆくと、このマスケットは火薬の爆発力が 威力を決める。 力が強いものが使っても威力は増えないが、 逆に力が弱いものが使っても威力は減らない。 どんな痩せた小男であろうと、板金鎧を貫く力が手に入る」 285 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 19 22 45.86 ID chcZF3wP 女騎士「だいたい、判った」 魔王「ふむ」 女騎士「この武器自体は問題じゃない」 魔王「そうなのか?」 女騎士「やっかいな武器ではあるけれど、所詮武器。 戦術を適切に立てれば、勝つことは難しくない。 だいたい射程の百歩だって、そこまではないと思う。 50歩もはなれたら、鎧で止まるのじゃないかな。 それに、命中精度は相当に低い。 司令官を狙うのなら熟練の長弓兵の方が期待できる」 魔王「そうなのか?」 女騎士「しかし、それは人数が等しい場合だ。 この武器がやっかいなのは、いや、そうじゃないな。 こんどの聖鍵遠征軍がやっかいなのは、 このマスケットの持つ考え方に正しく気がついて 運用してきた所にある。 つまり、“この発明は人間同士の力の差を小さくする” って言う部分なんだろうな。 おそらくこのマスケットを配った10人の農夫と 10人の騎士が闘えば、10人の騎士が勝つだろう。 でも、30人の農夫ならば、農夫が勝つ。 騎馬の持つ力や重装甲の絶対的有利が 崩れてしまう武器なんだな」 魔王「……」 メイド長「……」 286 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 19 24 41.55 ID chcZF3wP 女騎士「おそらくこの武器を最も有効に活用する方法は 平原における会戦で、歩兵の密集隊形からの射撃だろうな」 魔王「ふむ」 女騎士「……さて」 魔王「どうだ?」 女騎士「魔王が思いつく、この武器の弱点は?」 魔王「簡単な所では、着火機構だな。 火のついた縄を用いるせいで信頼度が低い。 つまり、発射しない時があるのだ。 それに射撃姿勢の自由度も失われる。 水平射撃が最も安定するな。 また、当然火を使うために水気に弱い。雨は大敵だ。 火縄を用いる構造上、完全な密集隊形はとりづらいと 言うこと点ある。 補給にも問題があるな。 火薬がないと無用の長物になるし、火薬は、たとえば 予備の矢の用に戦場で作るわけには行かないから」 女騎士「……そう言った機構上の弱点を改良する 方法はあるのだろう?」 魔王「うむ。それはフリントロックと言われている、 このマスケットの一段階進歩したタイプでな。 着火機構に火打ち石を使うことによりいくつかの 弱点を克服できることになる。密集率をより上げるとか」 女騎士「うーん。その情報も漏れている可能性は?」 魔王「否定は出来ない。けれど、量産はまだなんだろうな。 もし量産が成功していたら、 こんな旧式が沢山配備されているのはおかしい」 289 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 19 27 29.73 ID chcZF3wP 女騎士「……まず、このマスケットを我が 南部連合でも大量に生産するというアイデアは却下だ」 魔王「そうか」ぱっ 女騎士「別に魔王の良心におもんばかっている訳じゃない。 けれど、このマスケットの一番の特徴は “人数を戦闘力に置き換える”と言う部分だと思う。 だとすれば、同じマスケットと同じ戦法でぶつかり合えば 人数が多い方が勝ってしまう。 もちろん現場での用兵で寡兵が多数に勝つこともあるが その場合でも、少数の側の被害を押さえることは難しい。 その“人数を戦闘力に置き換える”というのは おそらく専門の軍人ではない、短期間の訓練を施した 即席兵を戦場にかり出すことで実現されるはずだ。 聖鍵遠征軍なんて、まさにそのためのお題目なんだから。 相手の得意な戦場で戦ってはだめだ。 三ヶ国は人工ではまだまだ中央国家に及ばないんだからな。 わたしは馬鹿だけど、それくらいは戦場の常識だ」えへん 魔王「そうだな。それでは意味がない」 女騎士「一番良いのは、兵糧攻めだ。 闘わずして勝つことが出来る。相手は数も多いしな」 魔王「それならば専門分野にも近い。多少は協力できるはずだ」 女騎士「だが、そうなると、今度は暴走が怖いんだ。 飢えて凶暴になった20万の軍が、自暴自棄になって 襲いかかってきたら、どんな国の軍だって 引き裂かれてしまう」 魔王「うん」 290 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 19 29 04.87 ID chcZF3wP 女騎士「それに戦場では常に想定していないことが起きる。 それをわたしは今回高い代価を払って学んだ。 兵糧攻めだけでどうにかなるなんて 甘い考えはよした方がいいな」 魔王「うん……」 メイド長「でも、マスケットの集団と闘うのは どうやっても犠牲が大きくなりすぎますよね……」 女騎士「……」 魔王「……」 メイド長「……」 女騎士「魔王、威力は力には依存しないと言ったけれど では火薬の量には依存するのか?」 魔王「おおむねそうだな。 火薬を増やし、火薬に耐えうるだけの筒の強度を保証し 玉の大きさを大きくすれば、当然威力は上がる」 女騎士「威力が上がれば射程も伸びるか?」 魔王「当然な。だが、まぁ、玉も重くなるから 火薬を二倍にすれば二倍、と言うわけにはならない」 女騎士「射程だけを増やす方法はないのか?」 魔王「射程……」 女騎士「相手と同じ戦場で戦うのは、 無意味であるばかりか有害だ。 で、あるならば、同じ戦場にいるべきではない。 そうだろう? 射程があれば、それが可能だ」 魔王「射程……か」 314 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 20 38 23.39 ID chcZF3wP ――開門都市、『同盟』の商館 がやがや 辣腕会計「ふぅ」 同盟職員「一通りの手紙の処理は終わりましたかね?」 火竜公女「あとは、私的なものだけですゆえ」 辣腕会計「転移魔法ももうちょっと気楽に 使えればいいんですけれどね。 週一回で、小包程度じゃ貿易には使えない」 同盟職員「それでも、無ければ連絡だけで 大変な手間になってしまっていましたよ」 火竜公女「その辺は追々工夫してゆかぬといけませぬね」 辣腕会計「委員からの手紙は無かったんですか?」 同盟職員「へぇー」にやにや 火竜公女「私的に手紙をもらうような関係では ありませぬゆえ、当たり前です」ぷいっ 辣腕会計「そう言うことにしておきましょうか」 同盟職員「あれ、じゃぁこれは?」 火竜公女「ああ。これは妾の文通相手です」 316 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 20 40 05.48 ID chcZF3wP 辣腕会計「へ? 文通?」 火竜公女「ええ。妾の大事な薔薇水晶の角を触らせた おのこですゆえ。慕ってきて可愛いのです」 辣腕会計「えーっと」 同盟職員「内緒にしておきます?」 辣腕会計「記憶にあるような無いような」 同盟職員「進んでいるなぁ」 火竜公女「ふぅむ」 「こんにちは! 火竜の公女さま。お仕事いかがですか? 冬の国では、いま、一年で一番良い季節を迎えています。 夏なので馬鈴薯が沢山取れて、毎日王宮にも運ばれてきますし 食卓も彩り豊かです。ことしは、カブがとても豊作でした。 だから、豚さんもいっぱい食べて元気です。 この間。鉄の国で痛ましい戦争がありました。 商人先生は毎日難しい顔をしています。 ぼくは毎日帳簿の整理と清書をしています。 最近では、6桁の暗算も出来るようになりました。 毎日やるとすごく早くできるようになりますね。 でも、まだ先生には内緒です。 公女さまは、また冬の国に来ませんか? はちみつのお菓子の新しいのがとても美味しいのです」 317 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 20 41 19.03 ID chcZF3wP 火竜公女 くすくすっ 「えっと。それで。 この間、考えてもらったチーズの作戦は やっぱり公女さまの言うとおりでした。 一生懸命調べたら、担保になる期間がありました。 担保と蒲公英って似てますよね? 熟成っていうんですよ。 公女さまは知ってらっしゃいましたか? 一緒に入れたのは立ててみた計画です。 先生にはお褒めいただきました。 でも、先生は意地悪なので、ご褒美ではなくて また新しい課題を出してきたんです」 火竜公女「おやおや」 「今度は長靴です。僕たちは、柔らかい皮で作った 長靴を履きます。たいていの人は、靴を二足もっています。 長靴と、夏用の短い靴ですよ? 貴族の人はもっともっていますけれどね。 冬には、フェルトや毛皮で作った外靴を履いて 雪や寒さを防いだりします。 靴は大事なので、寝る時はベッドの下にしまいます。 村には裁縫の得意な人や専門の人がいて皮をなめしたり 靴の修理をしてくれます。新しく頼むのもこの人達です。 先生は、この靴をどうにかしたい、と言います。 本当は予算とか国の仕事じゃないんだけれど 今は人手が足りないのだそうです。 軍の人が履く、長い距離を歩いても疲れない靴って ご存じないですか? 知ってたら教えてください。 またお手紙します。公女さまとお菓子が食べたいです」 辣腕会計「……楽しそうですね」 火竜公女「なかなかにな。 苦労しているさまが目に浮かぶゆえ」くすくす 318 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 20 43 55.08 ID chcZF3wP 同盟職員「良く判りませんね」 火竜公女「商売の種は何処に転がっているか 判らぬとは、本当にその通りよな」 辣腕会計「儲け話ですか?」 火竜公女「“儲かる話に化けさせる”ではないかの?」 辣腕会計「ははは。呑み込んできましたね」 火竜公女「この都市には腕の良い靴職人はいるかや?」 辣腕会計「それは探せばいるでしょう」 火竜公女「今年は獣の皮が随分取れていると聞きますゆえ」 辣腕会計「ええ、鹿に猪、それから氷蛇。季候も良かったし 大きなは戦もありませんでしたから」 同盟職員「そう言う意味では、仕入れ時かも知れないですね」 火竜公女「それにしても行軍用の靴、か」 辣腕会計「面白い話かもしれません」 同盟職員「そう言えば、魔界の靴は出来がいいですね」 火竜公女「靴底すらない人間界の靴が おかしいように妾には思える。 あれでは厚手の革製靴下ではないか」 辣腕会計「でも、あっちではそれが普通ですしね」 同盟職員「これは確かに商売になるかも知れないな」 324 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 21 08 27.40 ID chcZF3wP ――冬越しの村、村はずれの館、厨房 ぐらぐら、ぐらぐら 魔王「沸騰したぞ、勇者」 勇者「ここで塩をひとつまみ」 魔王「こうか」 どさっ 勇者「それはひとつかみじゃないか?」 魔王「む。違うのか?」 勇者「同じだろう。塩は塩だ」 ぐらぐら、ぐらぐら 魔王「うむ。大差はあるまい、で?」 勇者「そこのソーセージを入れる」 ちゃぷん、ちゃぷん、ぐらぐら 魔王「で?」 勇者「次は、切ったキャベツも入れる」 魔王「ほほう。切るとは?」 勇者「俺がやるよ」シャキーン! ひゅばんっ! ぼちゃ 魔王「完璧ではないか」 勇者「ああ、自分が恐ろしいぜ」 327 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 21 11 03.29 ID chcZF3wP 魔王「これでいいのか? もう食べられるのか?」 勇者「いや、まて。じっくり茹でて加熱する。 おおよそ5分茹でるべし、とある」 魔王「5分か」そわそわ 勇者「うん、5分だ」 魔王「もういいかな?」 勇者「そんなに早いわけがあるかっ」 魔王「時間が判らないではないか」 勇者「しかたないなぁ。……いーち、にーい、さーん、しー」 魔王「……」わくわく 勇者「にじゅうごーにじゅうろくーにじゅうしちー」 ぐらぐら、ぐらぐら 魔王「かき回してみるか」ぐるぐる 勇者「さんじゅうしーさんじゅうごーさんじゅうろくー」 魔王「ああ、いい匂いだ」 勇者「ごじゅうにーごじゅうさんーごじゅうしー」 ガチャン 女騎士「なんだ。いるじゃない。……何をやってるの?」 魔王「いや、夕食の用意を」 勇者「ななじゅうはーちななじゅうきゅーはちじゅー」 330 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 21 12 31.17 ID chcZF3wP 女騎士「なんで?」 魔王「この間から非情に貧しい食事を続けていてな。 それをメイド長にぼやいた所、レシピを押しつけられて 最低限出来ないとどうにもならないので学べ、と……」 勇者「ひゃくいちーひゃくにーひゃくさんー」 女騎士「それはもっとも。――メニューは?」 魔王「茹でソーセージとキャベツ。あと、パン」 女騎士「そうか。失敗のしようもないね。 で、勇者は何をやっているんだ?」 勇者「ひゃくにじゅうにーひゃくにじゅうさーん」 魔王「ああ、数字を数えているのだ。 茹で時間を計らねばならぬからな」 ぐらぐら、ぐらぐら 女騎士「適当ではまずいのか?」 魔王「適当っ!? 我らに適当なものを 食べさせようというのか」 女騎士「いや、料理って適当なものだろう」 魔王「そんなことはない。完璧なハルモニアとは 完璧な準備と計算、そして連携に基づくものだ」 女騎士「そうなのかなぁ」 ぐらぐら、ぐらぐら 333 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 21 14 27.99 ID chcZF3wP 勇者「にひゃくにじゅうにーにひゃくにじゅうごー」 女騎士「随分湯が少なくなってきていないか?」 魔王「蒸発したのだろう。水分が気体となって 空中へと拡散するのだ。理論的に正しい現象だ」 女騎士「煮詰まってるんじゃないの?」 魔王「いいや、蒸発だ。科学的な帰結だ」 女騎士「ふむ」 勇者「にひゃくさんじゅごーにひゃくさんじゅろーく」 ぐらぐら、ぐらぐら 魔王「そろそろかな」 勇者「にじゃくよんじゅーにひゃくよんじゅういちー」 女騎士「皿を出さなきゃまずいのではないかな」 魔王「はっ。そう言えばそうだ」 勇者「にひゃくななじゅうろくーにひゃくななじゅうしちー」 魔王「勇者、300で火力停止だっ!」 勇者「心得たっ! “氷結呪”っ!」 パリーン!! 345 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 21 23 11.22 ID chcZF3wP 魔王「完成だ」 きゅるるー 勇者「ああ、長い戦いだったぜ」 ぎきゅるるー 女騎士「……」 魔王「さぁ、食べようではないか。勇者! この勝利を分かち合うのだ」 勇者「おう! 魔王! 女騎士もどうだ?」 女騎士「い、いや。わたしは結構だ。 見過ごしてしまった良心の疼きは感じるが メイド長の教育の過程を邪魔したくはない」 魔王「そうなのか? いただきまーっす。あむっ」 勇者「いっただっきー! ばくっ」 魔王「……」 勇者「……」 魔王「うぐっ。なんでこんなに辛いのだ」 勇者「塩が、塩がっ!?」 女騎士「塩を入れすぎだろう」 魔王「まさかっ? 指示通りだったはずだ」 勇者「常識を越えた味だぞ」 魔王「ううー。水をくれ」 女騎士「やれやれ」 とぽととぽ 勇者「俺にもだ」 347 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 21 24 28.44 ID chcZF3wP 女騎士「ああ。見てられない。貸してっ」 魔王「へ? 食べれないぞ、こんなもの」 勇者「塩辛すぎだ。生まれるのが早すぎたんだ」 女騎士「だからって捨てたらもったいないだろう。 湖畔修道会は、質素、倹約、勤勉を説いてるんだし」 魔王「それはそうだが」 勇者「でも、さすがに食える味じゃないぞ」 女騎士「まぁ、多少は味が落ちるが仕方ない」 トタタタタタン 魔王「へ?」 女騎士「きざんで、水をかけて軽く塩を抜くだろう? で、ベーコンの脂身を炙ったフライパンで炒めて ……このきざんだ塩ソーセージとキャベツの細切れを 入れてしまう」 じゃっじゃっじゃっ! 魔王「おおっ」 女騎士「火は調節するのが難しいから、 距離で加減するんだよ。火から離れれば弱火だ。 で、いい匂いがしてきたら、溶いた卵を六個入れる」 じゅわぁぁ~♪ 勇者「なんだか料理みたいだ!」 348 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 21 26 00.14 ID chcZF3wP 女騎士「卵を入れたら蓋をして、 火から離してしばらく待つんだ。蒸らされるまでね」 勇者「いくつ数えればいい?」 女騎士「適当だよ。皿を出して待ってれば良い」 魔王「心得た!」 女騎士「ほら」 ぱかっ。ほわぁぁ~。 魔王「美味しそうだ」 勇者「美味そうだ!!」 女騎士「……なんだか2人は意気投合しているね」 魔王「うむ。もう同居も長い。絆だ」 勇者「空腹者は特有の連帯感を覚えるんだな」 女騎士「一つ屋根の下か。……ハンデだなぁ」 魔王「まだ食べてはだめなのか?」 勇者「もういいだろう? 女騎士っ」 女騎士「まだだめだ。両手にフォークを装備してもだぁめ。 さらに、この固くなりかけのチーズを上から削ってかける。 これで完成。皿を持ってね。半分ずつとるから」 魔王「ううう」 勇者「いい匂いだなぁ」 350 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 21 27 04.61 ID chcZF3wP 女騎士「最近は、仲がよいのかな?」 魔王「仲は最初から良い」 勇者「まぁ、そうだな。がっふがっふ」 女騎士「そうか……」魔王「美味しいな。女騎士は料理も出来るのか」 勇者「そう言えば、昔も作っていたな」 女騎士「修道士は自分の面倒を自分でみるのが基本だし。 まぁ、パーティーで一番料理が旨いのは変態だった わけだけど」 魔王「変態?」 勇者「冬の国の執事のことだよ」 女騎士「昔のことだ」 魔王「そうか?」 勇者「もっきゅもっきゅ♪」 魔王「ところで今日は、どんな用事があったんだ?」 勇者「オムレット作ってくれに来たんだろう?」 女騎士「あ、いや。うん、たいした用事じゃないから」 勇者「そなのか?」 女騎士「うむ。戦略的に見て出直そうと思う」 368 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 22 04 45.62 ID chcZF3wP ――新生白夜王国、兵舎付きの執務室 王弟元帥「どうだ? あの軍を率いてみて」 灰青王「悪くはありませんね」 王弟元帥「ほう」 灰青王「確かに農民ゆえ、無統制になる局面がありますが 貴族の私軍とは違い、良くも悪くも素直ですな」 王弟元帥「マスケットはどうだ?」 灰青王「現状では、強力な石弓、しかし欠点も多い。 そういった感じです。提出した書面の方は?」 王弟元帥「読んである」 灰青王「あそこにも書きましたが、沼沢地での戦闘ですと 水気がある分、火薬が湿気ってどうしても不発が多くなる。 不発が多いと暴発などの事故にも繋がる。 負傷者のうち少なくない数が、 自分のマスケットで怪我をした事例になりますね」 王弟元帥「ふむ」 灰青王「面白み、はあります」 王弟元帥「面白みか」 灰青王「現在までの貴族軍での戦争は、 あまりにも貴族軍の連合体であると言う事実に縛られてきた。 今回の戦で、その盲目については気がつかされましたよ。 正直に言えば、戦争の覚悟のない農奴は、 やはり所詮農奴ですよ。臆病で身勝手だ。 しかし、そこに面白みのようなものがある」 369 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 22 06 44.40 ID chcZF3wP 王弟元帥「現在の問題点は?」 灰青王「資料を」 秘書官「はっ」 灰青王「現場の指揮官としてでよろしいですね?」 王弟元帥「そうだ」 灰青王「まずは最初に、攻撃力の集中です。 これは戦場の広がりに対して 攻撃力を一点の集中させると言うことでもあるし 時間の広がりに対して、ある一瞬に攻撃力を 集中させると言うことでもあるわけですが、 これがなっていない」 王弟元帥「ふむ」 灰青王「古来この戦力集中については、兵士の質的向上。 つまるところ個人的な武勇の研鑽と、指揮官の采配に 素早くしたがうことが出来るか否かという点によって 改善されてきた歴史がある。 しかし今回のこの、元帥閣下の軍。聖鍵遠征軍においては 個人の武勇、と言う点にそこまで重きを置きたくはない。 そうでしょう?」 王弟元帥「ふふふっ」 灰青王「で、あれば練兵は指揮に従うためのものを 中心にそれだけをみっちりと仕込み、 攻撃集中力そのものの強化は、武器の進歩……。 いわば改良に期待をしたい」 371 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 22 09 13.78 ID chcZF3wP 王弟元帥「ふぅむ」 灰青王「いかがです?」 王弟元帥「すでに新型マスケット、 フリントロックの作成は発注済みだ。 しかし、工作精度の問題で数が出そろうの先になる」 灰青王「かまいません。どうせ運用しながらでないと、 実戦訓練にはなりませんからな。 次の問題点は防御能力です」 王弟元帥「それは、書面でも触れられていたな」 灰青王「ええ、マスケットは一回撃ったらお終い。 もちろん再装填をすれば良い訳ですが、 混乱する戦場でそれだけの余裕を持つのが至難。 そして、撃った直後から著しい防御力の低下がある」 王弟元帥「うむ」 灰青王「これについては、王弟元帥がかねてから 提案なさっていたとおり、槍兵との連携運用で 解決がつきます」 王弟元帥「よかろう。ほかには?」 灰青王「マスケット単体の問題ではありませんが 参加している貴族達とのあいだの意識の乖離。 特に貴族側の、マスケット兵に対する嫌悪感と軽蔑。 これは問題です」 王弟元帥「貴族だからな」 灰青王「ええ。そうです。 しかしマスケット兵は、その攻撃力と数において 瞠目すべき点がありますが、あくまで農奴中心の部隊。 専門的な軍事訓練を受けたわけではない。 やはり高速で多様な軍事機動などは、 貴族の持つ騎馬兵力に頼らなければならないような 場面が今後も数多くあるでしょう。 それゆえ、現状貴族とも上手く付き合わなければなりません。 マスケットは無敵の兵ではないのですから」 372 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 22 10 48.20 ID chcZF3wP 王弟元帥「その点について、何かの具申はあるか?」 灰青王「それは、今後、王弟元帥がどのような 国家を作っていくかの想定次第でしょうねぇ」にやり 王弟元帥「……ほぅ」 灰青王「今のままの体制を維持し、貴族と王族が 互いに助け合い、と言えば聞こえはいいですが、 牽制し合いながら民の上に君臨してゆくか、 王族が民を直接統治してゆく絶対王政を敷いてゆくか」 王弟元帥「……」 灰青王「現在の中央国家群は、国家乱立とは云え、 その実、教会による横のつながりの輪の中に囚われた 複数の馬のようなもの。その中で長兄たる聖王国の 影響力は消して小さくはないでしょうな」 王弟元帥「ふっ。戯れ言だ。我ら聖王国も 光の精霊の1人の信徒に過ぎない。 こたびの遠征軍も、諸王国、諸貴族、そして民の自由な 信仰心の発露によるもの……」 灰青王「ははははは。だが、その自由を許していては 反感も連携の不備もどうにもなりません」 王弟元帥「――ふっ。大主教がどのようにお考えかは 自ずと別として、わたし自身は今後も貴族は 必要不可欠と考えている。ただ、時代によって その求められる資質が変わるだけなのだ」 373 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 22 12 43.43 ID chcZF3wP 灰青王「そう言うことであれば、信賞必罰。 武門のよって立つ所にしたがいて、軍規をつくり これに王族、貴族から率先して従うことにより、 民に範を示す。また貴族にはその働きに応じて 褒美を取らせる。 お定まりの手ですが、これを実行してゆけば いずれは軋轢も少なくなりましょう。 本来的には同じ魔族と戦う軍なのですから。 傭兵が混じるとこの種の法はやっかいだが 元々我ら国家にとって傭兵は、兵力が足りない時の 予備兵力だった。今回の戦いでも、貴族の私兵としての 傭兵はあっても、聖鍵遠征軍として雇った傭兵はいない。 で、あれば問題ないでしょう。 問題ある貴族がいるのならば、その貴族は…… そう、おそらく――背教者なのだから」にやっ 王弟元帥「司令官が言うのであればそうなのだろうな」 灰青王「では、そのように軍規を改めましょう」 王弟元帥「期待しているぞ」 灰青王「今回の指揮で、マスケットの射程や、 その攻撃タイミング、クセなどはつかみました。 次回からの前線指揮は より確実なものにしてご覧に入れましょう」 王弟元帥「それでこそ、霧の国の若き英雄王だ」 灰青王「ははっ」 377 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 22 26 35.46 ID chcZF3wP ――冬の国、城下町の一軒家の前 「にゅーっほっほっほ、にょーほっほっほ」 女騎士「……」 「わ! これは素敵ですぞぉ! ふくらみ、まろみ。淑女のレディですなっ!」 「もう、お怪我にさわっても知れませんよ?」 「いやいやいや。これがあるから治るのです。 そーっれ、ぱっふぱっふ」 「きゃ。うふふふ。ぱっふぱっふ♪」 女騎士「……」 「そーれもういっちょー♪」 「いやん、元気すぎ~っ」 「ぱっふぱっふ。にょほほほ~」 「うふふふっ。ぱっふぱっふ♪」 ガチャリ。 女騎士「失礼する」 執事「……」 看護の娘さん「……」ぴきっ 女騎士「あー。いい加減にした方がいいと思うぞ」 執事「なっ。なにもしておりませんぞっ!?」 383 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 22 29 45.44 ID chcZF3wP ――冬の国、城下町の一軒家のなか 女騎士「もういいのか、爺さん」 執事「ごほっ、ごほっ。お気遣い無く。 わたくしはもう年老いた老兵に過ぎません。 老兵は死なず、ただ去りゆくのみ。 ……あの葉が落ちる時には、この爺めも」 女騎士「なんで死にそうな爽やかさなんだ。 さっきまであんなに楽しそうだったのに」 執事「あれはですねっ。 全然全くやましい事など無いのですぞ!」 女騎士「“そーれもういっちょー”」 執事「なっ! ど、どこから聞いていたのですか!?」 女騎士「何も聞いてない……ことにしたい」 執事「とにかく何らやましい事はないのですぞ。 それどころかあの状況で奮い立たなかったら 男としてのやましさを感じること請け合いですぞ」 女騎士「全く、いつまでたっても年をとらないなぁ」 執事「にょっほっほっほ!」 女騎士「褒めてないからなっ」 執事「しょぼん」 384 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 22 30 43.62 ID chcZF3wP 女騎士「でも、元気そうで安心した」 執事「まぁ、これでも鍛えていますからな」 女騎士「治癒術はしたのか?」 執事「ええ、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」 女騎士「これは見舞いだ。梨なんだが」 執事「嬉しいですね」 女騎士「剥いてもらうといいぞ。胸のでかい娘さんに」 執事「にょっほっほっほ」 女騎士「……胸のでかい娘さんになっ」 執事「こほん。いえ、ありがとうございます」 女騎士「……ふぅ」とさっ 執事「どうしました?」 女騎士「……じつは」 執事「……」 女騎士「……うん」 執事「なにかあったのですか? 勇者との仲を決定的にすべく、 この老爺の知恵でも借りに来たのですかな?」 女騎士「何で判ったのだ!?」 執事「年の功と申しますか、はははっ」 386 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 22 33 32.25 ID chcZF3wP 女騎士「そうなのか?」 執事「女騎士が勇者にほの字なのは、 それもう、最初からばればれでしたからね。 にょっほっほっほっほ」 女騎士「そうか……」 執事「ええ、そうですよ。 一緒に旅をしていたあの当時から、あなたたち2人の 視線の先にはいつでも勇者が居ましたから。 とんだ迂闊の童貞ボーイですよ。にょほほ」 女騎士「2人?」 執事「いえ、それは何でもありませんよ。 ところで、何処まで進んだのですか?」 女騎士「どこまで?」きょとん 執事「勇者との男女の仲ですよ」 女騎士「ああ、剣を受け入れてもらった。 わたしはもう勇者のものなのだ」えへんっ 執事「……はぁ」 女騎士「何でため息をつくっ!?」 執事「こともあろうに“騎士の宣誓”を男女の仲の 進展具合にカウントするとは。この執事も情けなくて 笑い声が出てしまいます。にょっはっはっはっは!!」 女騎士「笑ってくれるな。わたしだってきわきわなんだし」 387 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/01(木) 22 35 03.52 ID chcZF3wP 執事「まぁ、お二人とも奥手ですからね。 おまけに相手はあの勇者ですし。 まぁ、相当の難物ですよ」 女騎士「そうなのか?」 執事「ええ、魔王も困っているでしょう」 女騎士「そういえば魔王のことは、 冬寂王には報告しないで良いのか?」 執事「それは、この爺には手に余る案件です。 いずれ時が至れば、若が己で知るでしょう」 女騎士「そうか……。困るって、勇者はもしかしてその……」 執事「ん?」 女騎士「もしかして私たちのことを嫌いなんだろうか?」 執事「いえいえ、そんなことはないと思いますよ。 ただ、勇者は難しい相手だ。 とこのように申し上げただけで」 女騎士「それはなんでだ?」 執事「ふぅむ」 女騎士「昔のよしみだ。何かヒントをくれないか? わたしだって変態の知恵を借りるのは忸怩たる思いだが いい加減魔王に差を付けられていて、 このままでは色々取り返しがつかなくなりそうなんだ」 ページトップへ <前9-1へ|次9-3へ>
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ここを編集 敵一覧 取得経験値は、各ダンジョンのページを参照すること。 敵名 属性 特殊能力 説明 出現戦地 G-ランク ルーキーソーサラー 無 魔法の針 見習い魔術師。 東の砦 ソーサラー 無 魔法の針 下級魔術師。 ジェームスの迷宮、アブラシティ、征服者の塔 Gランク メイジ 無 魔法の針 魔術師。 北の砦、港町ブライアント ウォーロック 無 魔法の針 上級魔術師。 南の砦、ソラリスの塔 G+ランク ウィザード 無 魔法の針、魔法の矢 超上級魔術師 自由都市ウェストグロス、水上都市ロークワット、ミノタウロスの迷宮、竜の洞窟、征服者の塔 メイジ・ジョネス 無 小火球、魔法の針 謎の魔術師。色々調べたけど、わからなかった。 ジェームスの迷宮、征服者の塔 F+ランク ウィザード・アルタイル 無 -- 年に一度色々忙しい魔術師。最近は倦怠期。別に合わなくても良いんじゃないかな 水上都市ロークワット、征服者の塔 イーグリット・ウィザード 無 -- 白鷲団の魔術師。 城塞都市イーグリット F-ランク バロネット・ウィザード 無 魔法の針、魔法の矢、魔法のやり 準男爵の魔術師。 バベルの塔、征服者の塔 バロン・ウィザード 無 魔法の針、魔法の矢、魔法のやり 準男爵の魔術師。 魔王の城、影と氷の洞穴、火山フロッグ、征服者の塔 E-ランク ヴァイカウント・ウィザード 無 魔法のやり、睡眠、麻痺、毒、混乱、魅了 子爵の魔術師。 南西の砦、影と氷の洞穴、征服者の塔 Dランク カウント・ウィザード 無 魔法の矢、魔法のやり 伯爵の魔術師。 南西の砦 B-ランク ウィザードマーリン 無 木の拘束、大火球、隕石落とし、稲妻、水の竜巻、竜の息吹、魔法のやり 森に住む高名な魔術師。強大無比な魔術を使いこなす。最高位に位置する魔術師の一人。万能の男。 魔王の城、征服者の塔 B-ランク マークィス・ウィザード 無 魔法のやり、魔法の三叉戟 侯爵の魔術師。 黄金とキルトの街ナト、北東の砦 SSS+++ランク デューク・ウィザード 無 魔法の三叉戟 公爵の魔術師。 北東の砦 XXX++ランク 魔術師ヤンセン 無 木の拘束、大火球、隕石落とし、稲妻、水の竜巻、竜の息吹、魔法のやり、キーロック、睡眠、麻痺、毒、混乱、魅了 恋愛依存症の色魔魔術師だが、現実と幻想の区別がつかない一部の狂信者の絶大な支持を得ている。 魔山ヴィーダー、征服者の塔 UXランク 魔人ヘルメース 無 3回攻撃、4回攻撃、メテオストーム、完全治癒、全体大治癒 伝説的な錬金術師。賢者の石を手にした唯一の人物。 影と氷の洞穴、征服者の塔 UX+ランク 死霊魔術師パレス 無 魔法の三叉戟、全体完全治癒、範囲睡眠、範囲麻痺、範囲毒、範囲混乱全体睡眠、全体麻痺、全体毒、全体混乱、状態回復 異能の死霊魔術師。スタンピングケープを死の岬にした一人。脅威の素早さを誇る。 スタンピングケープ、征服者の塔 UX++ランク 死霊魔術師デン 無 魔法の三叉戟、全体完全治癒、範囲睡眠、範囲麻痺、範囲毒、範囲混乱全体睡眠、全体麻痺、全体毒、全体混乱、状態回復 伝説の死霊魔術師。スタンピングケープを死の岬にした一人。脅威の生命力を誇る。 スタンピングケープ、征服者の塔 精霊師ロッソ 無 サラマンダーの灼熱、ウンディーネの奔流シルフの暴風、ノームの烈震 精霊を意のままに扱う赤の精霊師。自称美しき大地を守る番人。 ダックケープ、征服者の塔 精霊師マーレ 無 サラマンダーの灼熱、ウンディーネの奔流シルフの暴風、ノームの烈震 精霊を意のままに扱う青の精霊師。自称美しき海を守る番人。 ダックケープ、征服者の塔 UEXランク 魔術師パレルソン 無 超巨大火球、超巨大火球群、全体大治癒、全体完全治癒 毒竜アマルティアを愛する美しき魔術師。アマルティアと生き、アマルティアと死ぬことを望む。 地下迷宮バリド、征服者の塔 UEX++ランク 呪術師ヴェンセスラウ 無 範囲混乱、全体麻痺、全体混乱 死の呪術を操る呪術師。本人も色々と呪われている。望郷の旅人。 黄金とキルトの街ナト、征服者の塔 幻術師カミーロ 無 範囲混乱、範囲魅了、全体麻痺、全体混乱 死の幻術を操る幻術師。理想世界を追い求め、魂を形にする存在。自然主義者と対立している。 黄金とキルトの街ナト、征服者の塔